入門翻訳勝ち抜き道場

おすすめの本と映画etc.

「夏の間に読んだ本をおしえてください!」―― フィクション、ノンフィクションいずれもOK。本のタイトルと著者名、出版社名、おすすめする理由を添えてご応募下さい、との呼びかけに、11名の方から12冊のご紹介をいただきました。みなさま、どうもありがとうございました。

この夏、暑かったですね…こんな暑さの中、みなさん、どんな本を読まれているのだろうと楽しみに応募をお待ちしておりましたが、WEBマガジン『出版翻訳』に相応しい、格調高いラインアップではないでしょうか。

みなさま、どうぞお楽しみ下さい。アマゾンギフト券をゲットした方は、文末で発表しています。尚、掲載は先着順となっております。 (編集部)

『異本論』

「ポーシャ」さんのおすすめ
異本論』(外山滋比古著、ちくま文庫)

「筆者の意図の尊重という重圧が自由な読書のよろこびを圧迫している」「読者はもうすこし気楽に振舞ってもよいのではあるまいか」という著者の考えに沿って、自由に読んでみました。翻訳についても言及されています。そこから「自由に」読みとると、翻訳は外国語が日本語になるだけで、すでにりっぱな「異本」。さらに訳者によって訳文・訳調が変わるのだから、異本のオンパレードです。つまり読者は原著者の書いたものを読んでいるわけではない。できるだけ原著者の意図を正確に伝える努力をしたいと思っているのですが、どうやらそれで十分「創造活動」になっているようで、そんなつもりじゃないのに、と複雑な心境です。翻訳者の立場の難しさを再確認させられてしまいました。

『たのしい川べ』

「キジトラ」さんのおすすめ
たのしい川べ』(ケネス・グレーアム著、石井桃子訳、岩波書店)

イギリス児童文学の古典"The Wind in the Willows"の翻訳です。自然界の美しさが澄んだ筆致で描かれ、お人よしのモグラ、しっかり者のネズミ、好奇心旺盛で「こまったちゃん」のヒキガエルなど、登場する動物たちの言動にクスッとしてしまいました。石井桃子さんの美しい日本語に酔いしれ、今は原文に挑戦しているところです。

『本の虫ではないのだけれど』

原田 勝さんのおすすめ
本の虫ではないのだけれど』(日常を散策する 1)(清水眞砂子著、かもがわ出版)

『ゲド戦記』の訳者として有名な著者が、児童文学者、日本人、妻、教師、さまざまな立場から綴るエッセイは、口当たりはやわらかいが、どれも一本芯が通っていて、読む者の気持ちを引き締める。そして、人柄が滲み出たようなしなやかな日本語が印象的で、何度か涙を誘われました。

『古書の来歴』

「ヨシノスケ」さんのおすすめ
古書の来歴』(ジェラルディン・ブルックス、森嶋マリ訳、ランダムハウス講談社)

紛争で行方が知れなかった禁断の「ハガター」がサラエボで発見されるところから物語は始まります。鑑定・修復するにしたがい、この本に封じ込められた500年の歴史と人々の秘密、さらには鑑定家の数奇な運命までが明らかにされていきます。

ハガターとは、「過越し祭」の正餐の際に使う出エジプト記を語り伝えるユダヤ教の聖典のこと。しかし、この本を命がけで救ったのはイスラム教徒の学芸員。ユダヤ教、イスラム教そしてキリスト教の宗教対立による悲劇、ユダヤの民の歴史。まるで古書版CSIと評されていましたが、まさにその通り。本に付着していた昆虫の羽や海水の塩、動物の毛、ワインの染みなどから解き明かされる様々な物語。本書では鑑定家の発見の間に、当時の「物語」が挿入されています。

フィクションとはいえ、ハガターは実在する本です。このようなことが実際にあったのではないかと思えるほど、挿入の「物語」はいきいきとしていて、とっぷり入り込んでしまいます。

過去の物語の挿入が多いせいか(6編)、それぞれが短くて、この物語はもっと掘り下げて欲しいのに、と思うところもありましたが、どれも興味深く、異端審問、焚書、迫害、紛争など考えさせられることも多いです。

歴史ミステリといっても、読み難い本ではなく、宗教問題や人種問題についての知識があまりなくても楽しめる本だと思います。歴史に詳しくない私でも楽に読めました。

スラスラ読める本ですが、鑑定家が見つけ出した謎を自分で解き明かそうと想像してみたり(絶対に想像もつかない物語が隠されていると思います)、自分がその立場だったらどうするか、ハガターを守れるか考えてみたり、一つ一つの章で本を置いて、じっくりと物語の世界にひたってみるのも面白いと思います。

「みゅうの母」さんのおすすめ

『若い藝術家の肖像』

1.『若い芸術家の肖像』(ジェイムズ・ジョイス著、丸谷才一訳、集英社)

1冊で3度美味しい。1度目は普通に読む、2回目はページの下に付された驚くべき量と内容の注釈を追いながら読む、3度目は注釈を頭の隅で反芻しながら読む(おお、深い!)、あ、それに、解説もかなりの読みごたえがあって、4度美味しかったりします。

『失楽園』

2.『失楽園』(ミルトン著、平井正穂訳、岩波書店)

翻訳を志すならキリスト教の世界観はとっくに知っていなければと思いつつ、何となく敬遠していましたが、これはSFを読んでいるみたいであっという間に読破。神様やサタンやアダムが、ちょっと身近になります。(職場近くの古書店で見つけました。)

『レイチェル』

「5匹の子豚」さんのおすすめ
レイチェル』(ダフデ・デュ・モーリア著、務台夏子訳、創元推理文庫)

「レベッカ」、「鳥」で有名なデュ・モーリアにはまって数年が経ちます。「レイチェル」は原書に数回挑戦しましたが、いつも3分の1程度でギブアップしていましたので、ついに翻訳本を購入、やっとこの夏、読み終えることができました。なんと、面白いのは3分の1をすぎてからだったんですね。

出版元が創元推理文庫ですし、ミステリの部類にも入るかもしれませんので、細かいことはネタバレになりかねないので割愛しますが、主人公フィリップの心の変化に引き込まれます。そして意外なラストシーン。読んだ直後はひたすら圧倒されますが、頭を冷やしてよく考えると、あのストーリーは全てフィリップの視点にすぎず、別の解釈も可能だということに気づかされ、今度は別の人間を軸にして読み直したくなります。つまり、ミステリでありながら、幾通りもの解釈が楽しめるのです。
デュ・モーリアの作品には独特の怖さがあり、大好きで、もっともっと読みたいのですが、あまり翻訳されていないのが残念です。

『能―神と乞食の芸術』

「ひなたろう」さんのおすすめ本
能―神と乞食の芸術』(戸井田道三 せりか書房 1989年)

どこか遠くへ行きたいと思いつつも、この夏の炎熱では外出する気になれず。そんなときこそ、と、わたしが押し入れの奥から引っ張りだしてきたのは「能―神と乞食の芸術」(戸井田道三 せりか書房 1989年)。自宅にいながら、まるで能楽堂にいるかのように能を堪能できる一冊だ。本書はお能の歴史と現在について論じたもので、その語り口は平易だ。が、時に激しい怒りを含んでいる。著者の能に対する深い愛情が、現在の能(とはいえ、初版は今から46年前に著されたもの)の在り方に苦言を呈させているのだ。著者は読者に能の知識を与えてくれるだけではない。読者の感覚に訴えかけ、読者をヴァーチャルな能楽堂空間へと誘う。例えば、冒頭の四行である。

わたしは静かに能楽堂にはいっていく。扉をあけて、まだ観客のちらほらしか来ていない席を見渡す。ゆっくり自分の席について、何も無いひろびろとした舞台を眺め、四本の柱にささえられた舞台の屋根を見上げる。

能はわたしの内側でもうはじまっているのである。

読者は、著者と共に、演目が始まる前の舞台を心ゆくまで眺めることができるのだ。この「何も無い」舞台を五感で味わってこそ、その後に続く能舞台の面白さを堪能できるのである。著者は力を込めて言う。

舞台の空無は、(中略)たとえば、今まさに筆をおろされようとしている白紙のようなものだ。ぽとりと墨の色が一点しるされれば、白紙は世界に変化する。

能舞台の上の、この墨汁の一滴が引き起こす変化と、白紙に描き出された新しい世界の出現が能の醍醐味である。この現象を目の当たりにするとき、躰中の血液が逆流するような興奮を覚える。ビートたけし氏の言う通り、お能は「昔のロックコンサート」なのだ!

能になじみの薄い方々には、ビートたけし氏の言葉を信じて、ぜひ一度能楽堂に足を運んでいただきたい。その後に本書を繙き、能の知識を深め、著者の言葉が紡ぎ出す仮想の能舞台をじっくり鑑賞したならば、きっと、もう一度能楽堂に足を運びたくなるだろう。

『白波五人帖』

「カピ」さんのおすすめ本
白波五人帖』(山田風太郎著、集英社文庫、他に徳間文庫)

五人の盗賊が暴れまわる歌舞伎、白波五人男をテーマに、木曾の治水工事や加賀騒動などの、江戸中期の事件をからめた小説で、講談調の語り口とべらんめえ調のセリフが相まって、物語がテンポよく進んでいきます。五人の盗賊を主役に、舞台は木曾、加賀、江戸と疾風のごとく移り変わってゆき、行く先々で時の権力者を手玉に取るさまは痛快で、また、悪党ゆえに、その生き様ははげしく凄まじい。痛快、壮快、妖艶、凄絶、悲壮、娯楽小説の全てを凝縮したようなストーリーはあっという間に過ぎていき、後を引く面白さで、秋の夜長にぴったりではないでしょうか。

『アンナ・カレーニナ』

「モーモー」さんのおすすめ本
アンナ・カレーニナ』(トルストイ著、中村白葉訳、岩波文庫)

ン十年ぶりに再読しました。以前は木村浩訳、今回は中村白葉訳です。人妻でありながら若い伯爵との恋に落ちたアンナと、その周りの人々の生きざまが生き生きと描かれます。人はいかに生きるべきか、本当の幸せとは何か時代背景が違っても、この本が問いかけるテーマは、今を生きる私たちにとっても深いものです。「わたしは生きたいのです」というアンナの言葉が心に残り、いつまでも響いていました。

『日日是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』

「Yogiko」さんのおすすめ本
日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(森下典子著、飛鳥新社)

落ち込んだり、迷ったりした時には読み返したくなる私にとってはバイブルのような本です。

「頭で考えようとしないこと」「今、ここにいようとすること」「このままで、よいということ」25年間茶道のお稽古をしている作者が、茶道を通して学んだ15のことを紹介している本ですが、私達の普段の暮らしや生き方に通じることばかりで、茶道に興味が無い方にも共感して頂ける本だと思います。

文章もとてもきれいで、読んだ後には幸せな気持ちになります。新しい本ではありまえんが、未だ読まれていない方にはぜひお薦めの本です。

『詩歌の待ち伏せ 1-3巻』

「moguwai」さんのおすすめ本
詩歌の待ち伏せ 1-3巻』(北村 薫著、文春文庫)

知人に「翻訳の参考になる部分があるかも」と勧められた本ですが、詩や短歌になじみのない私にとって古今東西の優れた詩歌に触れるよいきっかけとなりました。翻訳のうえで非常に参考になると感じたのは、3巻冒頭の、5人の作家によるプレヴェールの詩「朝食」の訳詩です。元は同じ詩であっても、主語が「かれ―あたし」「彼―わたし」などと異なると、それだけで思い浮かぶイメージがいかに違ってくるものか、5つの詩が非常に端的に示してくれました。最初から読むのはもちろん、目次をさっと眺めて興味のわいた章から読んでいっても楽しめます。

みなさま、いかがでしたか?読んでみたいと思われる本、ありましたでしょうか。

抽選の結果、アマゾンギフト券は、「カピ」さんの『白波五人帖』に決定しました!

「カピ」さん、おめでとうございます。ギフト券、どうぞお楽しみに!

2010年10月25日号
(第4巻173号)