The Oxford Book of Children’s Storiesシリーズより出題中
入門翻訳勝ち抜き道場

翻訳玉手箱

藤岡啓介の翻訳玉手箱 第3篇
公開講座 プロになるぞ!! 第13回

藤岡啓介
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わたしの好きな女流作家は……

講座第12回で「あなたの愛読する女流作家は?」と質問したら、「みかんみかん」さんから便りがありました。

みかんみかん:
――好きな日本人作家を訊かれると、いつも「女流作家しか思い浮かばない」ので、これはひょっとすると偏った目で世の中を見ているんじゃないか、困ったなと、少々コンプレックスを感じていました。でも、今回の先生の御意見を拝読し、女流作家への偏愛もまた自然なことかと、なんだか安心しました。

さて、以下が私の愛する女流作家ベスト「4」です。この四人の作家でしたら、マニアと呼ばれることを嬉々として受けいれるほど、大好きです。おさまりよくベスト「5」にしたかったのですが、「ベスト」だとか「マニア」や「偏愛」という言葉を使うほど気に入った作家が残念ながら他には見当たりません。

第一位 武田百合子さん
第二位 須賀敦子さん
第三位 白洲正子さん
第四位 米原万理さん

ちなみに、昨晩、須賀敦子さんの作品の中で自分にとって特に印象深い部分を再読してみました。その部分の主要な要素は、であり、少なくとも私にとっては、須賀敦子さんの作品は「格調高い」少女小説と近いところがあるようです。その少女趣味的なところが殿方にはひょっとしたら退屈なのかもしれないと、ふと先生のコメントを思い出してしまいました。

藤岡:

なるほど、これが愛読者なんだな。たしかに「声のきれいな、目のぱっちりした従姉」が出ると、中勘助の『銀の匙』のお姉様のようで、オトメチックに苦笑するけど、これがいいのか!! なければ須賀文学ではない。小説にはいろいろな読み方がありますね。妙な話だけど、一度だけ読んで、生涯もう二度と読まない、と誓った作品があって、じゃ、詰まらなかったのかといえば、とんでもない、忘れられない感銘を受けて、この作品のことを口にするのも辛くなる、切ない、嫌だ、頁をくるのも恐ろしい、という小説があります。どういう小説なのか。これって、もしかしたらロマン・ロランの、ほれ、あの物語じゃないかな。ああした恋の話だったら、もう二度まで読まなくていい、永遠に残る、青春の魂に刻まれるものだもの。

ところで、編集の濱口さんが「藤岡啓介の本棚」というブログを設計して立ち上げてくれるという話です。WEBだ、本棚は無限に広がります。皆さんの「本」も飾りましょうよ。どういう仕様で皆さんの寄稿を受け付けるか、次回に発表しますね。

(今回は眠り姫さん、ビュシーノさんから「自問自答」が寄せられていますが、残念ながら次回に回します。)

アメリカ娘は華奢だったのか?

さて、いよいよ主役の美女ナオミの登場ですね。まずはtextを読んでください。さらに自分の力で翻訳します。楽をして翻訳ができるわけがありません。中国の蘇州だったと思いますが、お蚕さんが吐き出す糸をひと針ひと針刺して刺繍しているのを見学したことがありますが、気が遠くなるような仕事でした。でも、驚いてはいられません。翻訳も同じなんです。一文字一文字、丁寧に編んでいくのです。日ごろ文字を書かない人から見れば、1冊の本を訳すのに30万文字、50万文字を並べていくなんて、しかも、毎日毎日同じ姿勢で何ヶ月も、ものによっては何年もかかって文章を綯っていく、おそろしく気の遠くなる話なのです。それに挑戦するのですから、翻訳は苦行ではありますが得意なことでもありますね。(小説家も同じではないかといわれますが、向こうさんは創作、自分で下絵から書いていきますが、翻訳は出来上がった絵を再現しようとする、下絵を探りながらの苦心なので、こちらの方が辛抱がいりますね。)

ところで課題です。まず、自分の訳文をプリントして、それを前にして眠り姫、ビュシーノ、藤岡と展開していく翻訳の現場を楽しんでください。

今回は、ナオミの容姿を描いていますが、アメリカ娘、当時は華奢だったのかな?

Text 11:
A pretty girl, and, so far as I could judge by appearances, a good girl too. Describing her generally, I may say that she had a small head, well carried, and well set on her shoulders; bright gray eyes, that looked at you honestly, and meant what they looked; a trim, slight little figure--too slight for our English notions of beauty; a strong American accent; and (a rare thing in America) a pleasantly toned voice, which made the accent agreeable to English ears. Our first impressions of people are, in nine cases out of ten, the right impressions. I liked Naomi Colebrook at first sight; liked her pleasant smile; liked her hearty shake of the hand when we were presented to each other. "If I get on well with nobody else in this house," I thought to myself, "I shall certainly get on well with _you_."
For once in a way, I proved a true prophet. In the atmosphere of smoldering enmities at Morwick Farm, the pretty American girl and I remained firm and true friends from first to last. Ambrose made room for Naomi to sit between his brother and himself. She changed color for a moment, and looked at him, with a pretty, reluctant tenderness, as she took her chair. I strongly suspected the young farmer of squeezing her hand privately, under cover of the tablecloth.
The supper was not a merry one. The only cheerful conversation was the conversation across the table between Naomi and me.

解題:
テキスト:
A pretty girl, and, so far as I could judge by appearances, a good girl too.

appearances:複数形だから「外観, うわべ, 見かけ, 外見, 様相, 様子」ですね。眠り姫のように「外見」とすればいいのだけど、お嬢さんの外見、ではきついな。ビュシーノさんはとくに対応語を示さないで「気立ての良い娘さん」としているけど、これもだめだな。やはり「容姿、様子」くらいは使いたい。でも、「様子」はもう古いかな。「ちょいと様子のいい、年のころなら……」と連なって、これは落語になってしまいますね。

眠り姫:

かわいい女性で、外見から判断するかぎりでは良家の子女だ。

ビュシーノ訳:

きれいな人だ、しかも見た限りでは気立ての良い娘さんらしい。

藤岡訳:

かわいらしい娘さんで、その容姿を見ただけの感じからいえば、気立てもいいにちがいない。

簡単な文章ですが、訳者が違うと、文章も違ってきます。あなたはどういう翻訳をしましたか? この部分だけでも送ってください。【この誘いに応える】

headは頭か顔か首か?

テキスト:
Describing her generally, I may say that she had a small head, well carried, and well set on her shoulders; bright gray eyes, that looked at you honestly, and meant what they looked; a trim, slight little figure--too slight for our English notions of beauty; a strong American accent; and (a rare thing in America) a pleasantly toned voice, which made the accent agreeable to English ears.

Describing her generally:彼女を概括的に描写するならば――漢語を使って語句をまず日本語に移すと、現代表現にもっていきやすくなります。それと、下記の眠り姫さんのような誤訳を避けることもできます。
she had a small head, well carried, and well set on her shoulders; 困った!まずheadだ、それからwell carried。「頭をもっている、肩に見事に乗っている」かな?必ずしもheadを「頭」にしなくてもいいですね。首から上を示すのだから「顔」でもいい。「首」もOKですね。そもそもここで悩むのが日本語の妙。日本語を勉強した外人さんには悩ましくない言葉の選択です。

carryでは、(頭・体などを)ある姿勢にする、と辞書にあるので、wellに姿勢を保つ。これを「形よく(すくっと肩に乗っている)」と解釈すればいいですね。
bright gray eyes, that looked at you honestly, and meant what they looked; 明るいグレーの瞳。それはあなたを公正に見る、そして、その瞳が見たものを意味する。

難しいですね、最初のカンマは何でしょう。次の関係詞節が挿入句のように見えますが、作者は文の形にもこだわるので、そうした感覚があるんでしょう。翻訳では、

――明るいグレーの眼をしていて、その眼でまっすぐに見つめ、相手の思うことを読みとってしまう。

a trim, slight little figure--too slight for our English notions of beauty; 髪の短い、か弱い、小さな姿――われわれ英国人の美の観念にとって、あまりにもか弱い。これでは訳文にならないので工夫しなければ。「華奢」もいいけど、この言葉をみると、中国美人が浮かびませんか?

眠り姫:
おおまかにナオミを批評すると、頭が小さくて、姿勢がよく、均整のとれた体形をしていると言えるかもしれない。誠実に人を見つめる明るい灰色の目、そしてその目は見たことを反映していました。きれいに切られた髪。細くて小さな指―イギリス人の美的概念からすれば、あまりにも細すぎる指。アメリカ人特有のアクセント。アメリカではまれなことなのですが、イギリス人の耳に心地よいアクセントをうみだす陽気な声

ビュシーノ訳:

彼女の全体像はというと、小さな頭が、姿勢良く、肩の上にうまい具合に収まっていた。輝く灰色の瞳は相手を誠実に見つめ、素直に心の内を表している。すっきりとした華奢な体つきをしているが、我々イギリス人の美人の概念からするとちょっと華奢すぎるだろう 。強いアメリカ訛だが、アメリカでは珍しく心地よく響く声の持ち主で、そのせいで彼女の訛りはイギリス人の耳にも快かった。

藤岡訳:
どんな様子をしているか、およそのことをいうと、は小さく、形よく、すくっと肩におさまっていた。明るいグレーの眼をしていて、その眼でまっすぐに見つめ、相手の思うことを読みとってしまう。身体つきは細く、小柄だったが、わたしたち英国人の美的概念からいえば、少々細すぎる感があった。言葉もアメリカ訛りが強かった。といっても、これはアメリカで珍しいことなのだが、彼女の声には耳に快い響きがあって、その訛りは英国人の耳にも感じよく聞こえた。

テキスト:
Our first impressions of people are, in nine cases out of ten, the right impressions. I liked Naomi Colebrook at first sight ; liked her pleasant smile; liked her hearty shake of the hand when we were presented to each other. "If I get on well with nobody else in this house," I thought to myself, "I shall certainly get on well with _you_."

眠り姫:
十の場合のうち九つまでが、人が抱くはじめの印象は正しい。 私は一目見て、ナオミ・コールブルックを好きになりました。ナオミの明るい笑顔と、私たちがお互いに紹介されたときに、かわした彼女の心のこもった握手が好きでした。「もし私がこの家で、ほかの誰ともうまくいかないとしても、きっとナオミとうまくいくだろう」とひそかに心の中で思いました。

ビュシーノ訳:

第一印象は十中八九あたるものだ。私は一目でナオミが好きになった。その愛らしい微笑みも、紹介されたときの心のこもった握手の仕方も素敵だった。「もしこの家の誰とも気が合わなくても」と私は心の中でつぶやいた、「君とならきっとだいじょうぶ、うまくいく」

藤岡訳:
第一印象はたいてい間違いないというが、わたしは一目でナオミ・コールブルックが好きになった。 その快活な微笑みも好きだったし、私たちが互いに紹介されたときの、彼女の心のこもった握手も好きになってしまった。「この家で、だれともうまくいかなくても、ナオミ、あなたとなら、きっと上手にやっていける」思わず、心のうちでこうつぶやいた。

いやいやながらの優しさ、には参るな

テキスト:
For once in a way, I proved a true prophet. In the atmosphere of smoldering enmities at Morwick Farm, the pretty American girl and I remained firm and true friends from first to last. Ambrose made room for Naomi to sit between his brother and himself. She changed color for a moment, and looked at him, with a pretty, reluctant tenderness, as she took her chair. I strongly suspected the young farmer of squeezing her hand privately, under cover of the tablecloth.

She changed color for a moment, and looked at him, with a pretty, reluctant tenderness, as she took her chair.:彼女は一瞬顔色を変えた、そして彼を見た、愛らしい、いやいやながらの優しさをこめて、自分の椅子を手にしながら。

逐語的に追いかけると上のようになりますが、reluctant tendernessが変ですね。「いやいやながらの優しさ」はおかしい。ここはナオミのアンブローズへの気持ちが出ているところです。「優しさが、思わず知らず表に現れる」と理解します。さて、どう訳すか。

眠り姫:
ナオミが彼女のいすをつかんだとき、ナオミはしばらくのあいだ顔色を変え、しぶしぶかわいらしい愛情をしめして、アンブローズを見ました。

ビュシーノ:
彼女は一瞬頬を染め、かわいい、やさしさを包み込んだまなざしを彼に向けて席に着いた。

並べてみると優劣がはっきりしますね。眠り姫さん、もっと恋をしようよ!!

眠り姫:

このときばかりは、私の預言があたっていることに間違いはありませんでした。モルウィック農場での、鬱積している憎悪の雰囲気のなかで、かわいらしいアメリカ人女性と私は最初から最後まで揺るぐことのない、真の友人でした。アンブローズはナオミを彼の兄と彼自身の間に坐らせるために、場所をあけました。ナオミが彼女のいすをつかんだとき、ナオミはしばらくのあいだ顔色を変え、しぶしぶかわいらしい愛情をしめして、アンブローズを見ました。テーブルクロスのしたで、若い農夫が隠れてナオミの手をぎゅっとにぎりしめているのではないかと、私は強い疑惑の念にかられました。

ビュシーノ訳:

この場合に限っていえばある意味、私は大預言者だった。敵意がくすぶるモルウィック農場において、この美しいアメリカ女性と私は最初から最後まで変わることなく、本当の友達でいつづけたのだ。アンブローズが弟と自分の間にナオミの席をこしらえた。彼女は一瞬頬を染め、かわいい、やさしさを包み込んだまなざしを彼に向けて席に着いた。若い農夫がテーブルクロスの下でひそかに彼女の手を握っているのは間違いないように思えた。

藤岡訳:

このときだけのことだが、わたしは本物の預言者だったといえる。モルウィック農場では憎しみが鬱積し、渦巻いているようだったが、その中で、このかわいらしいアメリカ娘とわたしは最初から最後まで友情堅固な仲間だった。アンブローズがナオミのために自分たち兄弟の間に席を作った。ナオミはちょっと頬を染めたが、椅子に手をやりながら、どこか娘らしい、隠すにも隠しようのない優しさを見せてアンブローズを見た。私の眼には、この若い農夫がテーブルクロスの下でひそかに彼女の手を握っているように見えた。

テキスト:
The supper was not a merry one. The only cheerful conversation was the conversation across the table between Naomi and me.

眠り姫:
夕食は楽しいことではありませんでした。唯一陽気な会話はテーブルをはさんで、ナオミと私との間だけでなされていました。

ビュシーノ訳:

夕食は陽気なものとは程遠く、明るい会話といったらナオミと私のテーブル越しに交わされたものだけだった。

藤岡訳:

夕食は楽しいものとはいえず、楽しいとすれば、テーブル越しにナオミとわたしがかわした会話だけだった。

―― 「わたしの新訳」に挑戦しましょう ――

本誌は「翻訳者の登竜門」です。読者の皆さんの翻訳作品を「わたしの新訳」欄に積極的に推薦します。条件は「本誌の読者」であること。この「公開講座 プロになるぞ!」をはじめとして、「翻訳勝ち抜き道場」を担当されている斎藤静代さんや新しく「入門翻訳勝ち抜き道場」を担当される藤田優里子さん、「部屋」をもたれている原田勝さん、岩坂彰さんの愛読者・講座登録者が、「私の翻訳を読んでほしい」と希望されれば、本講座の藤岡先生が原文・翻訳を読み、一応のレベルに達していると判断したら(あるいは何回かダメをだして改訂をしてもらってから)本誌の編集部に推薦して、掲載を依頼します。条件は、あなたが新人で、これまで公けの媒体に翻訳を発表したことのない人(原稿料・翻訳料をもらった経験のない人)。翻訳する作品は、版権がない(原則没後50年たった)英米作家の文芸作品で、短編小説かエッセイ。サキ、O・ヘンリー、ビアスなどの短篇作家には、新しい翻訳が望まれていますよ。ハーディーやD.Hロレンスにも短編があります。

応募を受けて推薦しない場合、その旨を伝えします。

手をつけている作品がありますか? 新刊の版権フリー本だけが市場ではありませんよ。編集部宛てに「自己紹介」と翻訳する作者(作品)を教えてください。手順を案内します。

挑戦者、あらわる

この提案には、これまで数名からの提案がありましたが、ついに「一応のレベルに達している」挑戦者があらわれました。北海道在住の「みゅうの母」さんです。みゅうの母さんは、「公開講座 プロになるぞ!!」を熱心に勉強されており、多くのコメントもお寄せくださっています。この度、長年温めてきた翻訳作品を編集部に持ち込まれました。藤岡先生からのフィードバックを元に、ただ今、改訂版に取り組んでらっしゃいます。『わたしの新訳』コーナーに発表する日も近いかもしれません。

さて、ここで、藤岡先生がみゅうの母さんに宛てたフィードバックの一部を紹介します。これから挑戦されることを検討していらっしゃるみなさまに、参考にしていただければ幸いです。

藤岡先生コメント(抜粋)

  • 提出していただいた翻訳は、翻訳コンテストでは優秀作でしょうが、でも、これを翻訳者が実名で発表するとなると、もうひと工夫ふた工夫がほしくなります。登竜門への挑戦です。頑張りましょう。
  • (藤岡先生の)参考訳をよくごらんください。翻訳しながら悩んだこと、迷ったことへの回答があるでしょう? 英文解釈もさることながら、この作品は低学年の子供たちが読むものです。こどもの読解力に迎合してやさしくするのではなく、一定の語彙・表記・表現の幅を踏まえながら、子供たちに日本語の正しい発想で読み書きすることを教えなければなりません。いわゆる「翻訳臭」を徹底的に避けます。基本的には、みゅうの母さんの日本語は温かく、すてきな感性を表しています。
  • 語りかける作家の姿勢は?ここで翻訳者は「翻訳者」でなく、日本の作家にならなければ駄目でしょうね。参考訳は一案で、他にもいろいろ考えられるところです。この商品の「決め手」になるでしょう。

このほか、原稿のフォーマットについての指示など丁寧なアドバイスをしています。
藤岡先生の参考訳は、A4 一頁に及び、訳文を改訂する際に十分な量の訳例を提示しています。
どうぞみなさん、果敢に挑戦してください。お待ちしております。

編集部記

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2009年4月20日号