おんぼろハウスと人形たち
― 妖精の女王クロスパッチのお話集(後半)―
フランシス・ホジソン・バーネット 作
佐藤志敦 訳
原作はこちら:
http://www.gutenberg.org/files/8574/8574-h/8574-h.htm
※ プロジェクト・グーテンベルクでは、Harrison Cady のかわいいイラスト付です!

>>前半のお話はこちら

おんぼろハウスのみんなは嬉しくて息もできないくらいでした。そして、いっせいに輪になって床にすわりこむと、なんでもその辺にあるものをつかんで額の汗をぬぐいました。ピーター・パイパーは椅子の背に掛けてあったカバーを使いました。

「ああ! 何とお礼を言ったらいいのでしょう。妖精の女王さま、ええと、ベベルパッチさん」と彼はあえぎながら言いました。「でも、今度の火災警報には、もうだめかと思いましたよ」

「わたしに任せておきなさい。あの人たちのことは何とかしますよ。チップ!」わたしは、いちばん近くにいた妖精に命じました。「おまえはこの家の近くにいて、何か困ったことが起こったらすぐに知らせるのよ」

そして、わたしは飛び去りました。朝の気持ちのいいひと仕事を終えた気分でした。

さて、それからも、とてもたくさんのことが起こりましたが、だいたいはレディ・パッツィーに関係がある出来事でした。わたしは、ひょっとしたら、ちょっぴり意地悪な気持ちになっていたのかもしれません。

もちろん、おんぼろハウスの人形たちは燃やされそうになったことなどすぐに忘れて、いつものように楽しくやり始めていました。それがあの子たちやり方でした。僕らは一晩じゅうくよくよ悩んだりしないんだ、とピーター・パイパーはよくいったものです。わたしは、そのとおりねと答えました。厄介事に大騒ぎして、病人を扱うみたいに大事にベッドに寝かしつけ、牛肉のスープやおかゆを食べさせるようにしいたら、決してその問題を乗り越えられないものなのです。

さて、今や、みんなのいちばんの楽しみはレディ・パッツィーでした。誰もが、彼女はステキなお城の誰よりも素敵だと思っていました。鼻をツンと上げることも、人を見下すことも、人を馬鹿にしたように笑うこともありませんでした。両方のほっぺにえくぼがあって、まつ毛は長くてカールしていて、鼻は小粋な感じで、瞳は輝いていつも笑っているようでした。

「あの子は家族の中でいちばん頭がいいに違いないよ」とピーター・パイパーが言いました。

初めのうち、レディ・パッツィーはもちろん病人のように扱われて、部屋から出してもらえませんでしたが、それでも、フリルつきのナイトガウンを着てベッドの上に起き上がっているのが見えました。何日かすると、窓辺に置いた柔らかな椅子に移され、そこに腰かけて外を眺めるようになりました。そして、おんぼろハウスの人形たちはこぞって窓辺に集まり、あこがれの人を眺めていたのです。

また何日かたつと、みんなはピーター・パイパーがしょっちゅういなくなることに気づきました。そしてある朝、リディクリスが屋根裏部屋へ上がっていくと、彼が窓に張りつくようにして、夢中で窓の外を眺めているところを見つけたのです。

「まあ、公爵さま!」と彼女は言いました。(人形たちは、いつもお互いの位を忘れないようにしていました。)「まあまあ、公爵さまったら。こんなところで何をしているの?」

「彼女を眺めているのさ。恋しちゃったんだ。シンシアが箱からあの子を取り出した瞬間に。僕、あの子と結婚するよ」

「でも、あの子は身分が高いでしょう」とリディクリスは真顔でさとしました。

「だからだよ」と、ピーター・パイパーはとても陽気に言いました。「身分の高いレディはボロボロの服を着たいい男と結婚するものだよ。もし僕が上から下までばっちりキメていたら、あの子、見向きもしないよ。それにほら、僕はすごくいい男だしさ」

そう言ってピーター・パイパーは振り返り、リディクリスにとても小粋なウインクを投げました。するとリディクリスは、急にピーター・パイパーがとてもハンサムに思えてきたのです。今までそんなことなんか、思ったこともなかったのに。

「ねえ」とピーター・パイパーは急に言いました。「あの子の気を引くいい方法を思いついた。毛糸玉はどこかな?」

シンシアの子猫が、前にとても役に立つ毛糸玉をプレゼントしてくれたのです。リディクリスが走ってそれを取ってくると、ほかのみんなも屋根裏部屋へ上がって、ピーター・パイパーが何を始めるのか見にきました。みんなは、彼があの可愛らしくて愉快なレディ・パッツィーに恋をしたと聞いて大喜びでした。ピーター・パイパーは屋根裏部屋の真ん中に立ち、毛糸玉をほどいていました。

「何をするの、公爵さま?」とみんなが叫びました。

「まあ、見ていてよ」そう言うと、ピーター・パイパーは毛糸で縄ばしごを作りはじめたのです。まるで、稲妻のような早業でした。作り終えると、いっぽうの端をしっかりと梁に結び、反対の端を窓の外に投げ出しました。

「あの子の部屋の窓からは、このおんぼろハウスが見えるんだ。そして、いいかい。あの子もいつもこっちを眺めているんだよ。僕らがあの子を眺めるのと同じように、向こうも僕らを眺めているのさ。そして僕らが楽しくやっていると、くすくす、くすくす笑うんだ。きのう、家の前で僕がレディ・メグとレディ・ペグとレディ・キリマンスケグを追いかけながら、五歩ごとに宙返りをしたときなんか、あの子、笑って、笑って、しまいにはハンカチで口を押さえてた。僕らが手をつないで踊ったり笑ったりして、最後に山のように重なって倒れてしまうときなんか、きっと、バラ色のほっぺにえくぼを作って、かわいい発作をおこしたみたいにくすくす笑うんじゃないかな。この縄ばしごで家の壁を下りて行ったら、きっと何だろうって思うよ。そうしたら、いろいろやり始めるからね」

そして、ピーター・パイパーが縄ばしごを滑り降りるとすぐに、窓辺のレディ・パッツィーがはっとして身を乗り出すのが見えました。みんなは窓の周りにぐるりと集まって、声を殺して笑いながらピーター・パイパーを見ていました。

ピーター・パイパーが、堂々とした宙返りを三回して見せ、すっくと立って元気よくお辞儀をすると、レディ・パッツィーがくすくす笑いだしました。つぎに、ピーター・パイパーはポケットから椅子の背のカバーをとりだして破れたズボンのはしにぐるりと巻きつけましたが、まるでズボンのレース飾りのようにみえました。そして、本物の公爵さま見たいに歩きだしたのです。つまり、両腕を胸のところに構え、ボロボロの古い帽子を耳が片方隠れるくらい斜めにかぶって。すると、レディ・パッツィーが声をたてて笑いだしました。逆立ちをして投げキッスをすると、今度は顔を覆って椅子を前に後ろに揺らしながら、笑って、笑って、笑いころげたのです。

それから、ピーター・パイパーは気取った態度でズボンの破れたほうの足をうやうやしく前に出し、ギターを抱えるような格好をしてレディ・パッツィーの窓の下でさっそく歌い始めました。

僕のおうちはおんぼろハウス
いとしい人よ、スラム街のおんぼろハウス
ドアの陰、めちゃくちゃひどいスラムにある
目の前に、丈夫なひじかけ椅子がある
(いとしい人よ、ちょっとご覧くださいな)

家の眺めは最高で
みんなの衣装は最低だ
でも、だあれも気にしない
みんなはくすくす大笑い
(そして、僕はあなたに首ったけ)

歌の続きは作れない
きっと歌えば、ああ、ひどい
けれどもここで歌える日がな一日
言いたいことがある限り
(本当は、あなたに見て欲しいだけなのさ)

それからピーター・パイパーは、あちこちぼろきれが飛び散るほど、元気よく激しいジグダンスを踊りました。最後にもう一つお辞儀をするとキスを投げ、あっという間に縄ばしごをよじ登り、屋根裏部屋へ飛び込みました。

それ以来、レディ・パッツィーは窓辺から片時も離れようとせず、腕利きの看護婦がベッドに寝かしつけようとしても言うことを聞きません。レディ・グエンドリンもレディ・ミュリエルも、レディ・ドリスもさっぱりわけがわかりませんでした。ある時、レディ・グエンドリンは、横柄で威張りくさって人を馬鹿にしたように、そして厳しい調子で言いました。

「あなた、そこにそんなに坐っていたら、あのいやしいおんぼろハウスの人形たちが、自分たちを見ているんだと思ってしまってよ」

「だってそうだもの」レディ・パッツィーはえくぼを見せながらすぐに言い返しました。「あの人たち、とっても楽しいのよ」

するとレディ・グエンドリンは威張りくさったようすのまま気を失って、腕利きの看護婦が介抱しても正気に戻りませんでした。

お城の人形たちは、馬車で出かけたり、お庭を散歩したりするときに、ちらりとでもおんぼろハウスの誰かを見かけると、鼻をツンとして鼻息も荒くしました。公爵夫人は、あんまりご近所の身分が低いので引っ越したいと何度も言ったほどです。みんな、おんぼろハウスの人形たちを馬鹿にしていました。ええ、それはもう本当に馬鹿にしきっていたのです。

ある月夜の晩に、レディ・パッツィーが窓辺に坐っていると、お庭のほうから口笛が聞こえました。そっと窓から顔を出すと、そこにはピーター・パイパーがボロボロの帽子を振りながら立っていました。小脇には縄ばしごを抱えています。

「こんばんは」と、彼は周りに聞かれないようにささやきました。「縄を投げたら端っこをちょっとつかまえてくれるかな?」

「ええ、いいわ」とレディ・パッツィーもささやき返しました。

「ほら行くよ」ピーター・パイパーはもう一度ささやくと毛糸の端を投げ上げ、レディ・パッツィーは初めの一回で受け止めました。その紐は縄ばしごに結んであるのです。

「引っ張って」

レディ・パッツィーは、よいしょ、よいしょと引っ張り続け、とうとう縄ばしごが窓のところに届きました。そして、窓枠の下の金具にしっかりと結ぶとすぐに、稲妻のような速さで、ピーター・パイパーが梯子を上ってきて窓からのぞき込んだのです。

「僕と結婚してくれる?」とピーター・パイパーは言いました。「食べるものだってないし、案山子みたいにボロボロだけど、結婚してくれる?」

レディ・パッツィーは可愛らしい手をたたきました。

「わたし、ほんのちょっとしか食べないの。それに、あなたの楽しいおんぼろなおうちで暮せるなら、ほんとに、なんにもいらないわ」

「とんでもなく荒れ果てた小屋だろう? でも、これ以上ないくらい素敵な家族だよ。最高のグミキャンディーみたいさ。笑って暮らせば何とかなるよ。はしごを降りて、あそこがどんなに楽しくてボロボロで古ぼけた穴ぐらか見たくない?」

「まあ、連れて行って!」とレディ・パッツィーは言いました。

そうして、ピーター・パイパーはレディ・パッツィーがはしごを降りるのを手伝ってあげ、ひじかけ椅子の下を通っておんぼろハウスへ案内しました。メグとペグとキリマンスケグとリディクリスとガスティバスは、レディ・パッツィーの姿を見るなり取り囲み、大喜びで声をあげました。

初めのうち、みんなはレディ・パッツィーにキスをするのをためらっていました。ピーター・パイパーと婚約したというのにです。なぜって、彼女はとってもきれいで、ドレスもフリルがいっぱい。自分たちの古ぼけた服でそのドレスを台無しにしてしまうのではないかと思ったのです。でも、レディ・パッツィーはレースのことなんかちっとも気にせずに、みんなのところへとんで行って、一人ひとりを抱きしめてキスしました。

「とってもここに来てみたかったの。お城は退屈すぎて、わたし、外に出るチャンスを作るのにわざと足を怪我したのよ。お母さまは暖炉のそばで金の眼鏡をかけて本を読んでばかりだし、グエンドリンお姉さまが威張りくさってハープを弾くと、ミュリエルお姉さまがツンとした様子でそれを聞くのよ。それに、ドリスお姉さまはいつも人を馬鹿にしたように笑っているし、ユベールお兄さまったら、いかにも高貴な生まれですっていう感じで新聞を読むの。フランシスお兄さまが知り合いの高貴な方たちに手紙を書いて、ルパートお兄さまは位の高いレディの方々から届いたラブレターをちらっと眺める。横柄な感じなのよ。本当に叫びだしそうだったわ。あなたたちがなんにも気にとめない様子でボロボロの服を着て楽しそうに踊ったり、笑ったり、新しい遊びを思いついたりするのを見ていると、とっても楽しい気分になるのよ」

みんなと一緒に家の中をあちこち見て歩くと、レディ・パッツィーは可愛らしい金色の巻き毛の頭が落っこちそうになるほど笑いました。そして、ピーター・パイパーはじゅうたんの穴や、ソファの中身が飛び出してきているのや、ベッドから羽根が飛び出しているのや、椅子の足がガタガタ外れそうになっているのを見せてあげました。こんなものを見るのは生まれて初めてでした。

「お城じゃ面白いことなんかひとつもないのよ。何かが飛び出したり、はがれたり、ガタガタすることなんて全然なくて、なんでもきれいでピカピカなの」

「でも、公爵さま、話してあげなくっちゃ」とリディクリスが言いました。「この家はもうすぐ燃やされてしまうかもしれないの」

レディ・パッツィーはそれを聞くとちょっとの間、本当に笑うのをやめてしまいました。でも、彼女はピーター・パイパーとよく似た性格だったので、すぐにこう言ったのです。

「あら! そんなこと絶対ないわ。きっとみんなのことは忘れちゃっているわよ」

そして、ピーター・パイパーが言いました。

「さあ、その話はもうおしまい。手をつないで輪になって踊ろう。かかとでステップを踏んで、今まで笑ったことがないくらい笑おうよ」

みんな、そうしました。そして、レディ・パッツィーは、だれよりもいちばんたくさん笑ったのです。それからは、彼女はいつもステキなお城を抜け出しては、おんぼろハウスへやってきて、みんなと楽しくやるようになりました。ときには一晩じゅうおんぼろハウスにいて、メグとペグと一緒に眠ることもありました。みんなは新しい遊びやお話を次々に考えついて、お日さまが昇ってからやっとベッドに入るほどでした。

一方、お城の人形たちは、日に日に人を馬鹿にしたような態度がひどくなっていきました。頭を高く、高くのけぞらせ、鼻をぶうぶう鳴らしたものですから、まるでみんながインフルエンザにでもかかっているかのようでした。何かといえば人を軽蔑するようなことを言いましたし、一度など、公爵夫人はシンシアに手紙まで書いたのです。自分たちにふさわしい上品な場所へ引っ越したいと。公爵夫人はその手紙を自分の机にしまっておきましたが、ネズミの紳士が夜のうちにやってきて持ち出してしまいました。おかげでシンシアが手紙を読むことはなかったのですが、たとえ見たとしても書いてあることがわかったかどうかは疑問です。公爵夫人ときたら字がひどく下手くそでしたから。ええ、人形の中でもひどいほうでしたよ。

そして次に、いったいどんなことが起こったと思いますか? ある朝、シンシアはステキなお城の人形たちがみんな、しょうこう熱にかかったという遊びを始めたのです。シンシアは、しょうこう熱が夜のうちに急に流行りだしたと言って人形をみんな裸にし、ベッドに寝かすと薬を飲ませました。でも、レディ・パッツィーを見つけられなかったので、彼女だけは病気にかからずにすみました。本当を言うと、レディ・パッツィーは一晩中おんぼろハウスにいたのです。みんなはブリキの冠をかぶったピーター・パイパーと一緒に、カンナくずを夕食にして、にせものの舞踏会を開いていたのです。ほかに食べるものがなかったせいですが、実は、そのカンナくずも、ネズミの紳士が自分の巣から贈り物として持ってきてくれたものでした。

シンシアはほとんどまる一日遊び続け、公爵夫人もレディ・グエンドリンもレディ・ミュリエルもレディ・ドリスもユベール卿もフランシス卿もルパート卿も、どんどん病気が重くなっていきました。

暗くなるころには、みんな熱に浮かされてうわごとを言い、フランシス卿とレディ・グエンドリンは胸に濃いからし軟こうを塗られました。そして、人形たちが苦しんでいるその真っ最中にシンシアは急に立ち上がってどこかへ行ってしまったのです。人形たちの運命など、ちっとも気にならないとでもいうように。その夜の真夜中、メグとペグとレディ・パッツィーはいっせいに目を覚ましました。

「あの音、聞こえる?」とメグは言って、古ぼけた枕から頭を起こしました。

「もちろんよ」とペグは言って起き上がり、ボロボロの毛布をあごのところまで引っ張り上げました。

レディ・パッツィーは髪の毛のあちこちに羽根をつけたまま飛び起きました。おんぼろベッドにあいた穴から飛び出してきていたのです。そして、窓辺へ走っていくと耳をそばだてました。

「ああ、メグ、ペグ! お城からだわ。シンシアが、熱で浮かされてうわごとを言っているみんなをそのまま放っておいたのよ。みんな叫んだり、うんうん唸ったり、悲鳴をあげたりしているわ」

メグとペグも飛び起きました。

「キリマンスケグとリディクリスとガスティバスとピーター・パイパーを呼びに行かなくちゃ」そういうと、三人は部屋を飛び出し、階段の途中で、キリマンスケグとリディクリスとガスティバスとピーター・パイパーが大慌てで駆け上がってくるのに鉢合わせしました。あの音のせいで、ほかのみんなも目が覚めてしまったのです。

みんなはすぐさま夢中でステキなお城へ急ぎました。もつれ合って転びそうになりしました。なんて心の優しい人形たちでしょう。ものすごい音が響いていましたが、召使いはみんな眠りこけていました。いちばん大きなうめき声はレディ・グエンドリンとフランシス卿のことろから聞こえていました。からし軟こうのせいで、ひどい火ぶくれができていたのです。

リディクリスがその場をとり仕切りました。病気については彼女がいちばんよく知っていましたから。リディクリスはガスティバスに召使いたちを起こしに行かせ、それから、お湯と水と氷とブランデーと湿布を用意させました。そして、仕事をほっぽり出していた腕利きの看護婦をゆり起し、からし軟こうを拭きとり、みんなに、おかゆとスープと咳止めシロップとひまし油と薬草をあげました。それから、おんぼろハウスの全員で、病人たちの身体をマッサージし、安心させるように優しくトントンとたたき、ぬれた布で頭を冷やしてあげました。

とうとう熱が下がりました。お城の人形たちはみんな顔色も悪く弱りきってはいましたが、枕に背中をもたれて、おんぼろハウス一家に向けて弱々しいながらも笑顔を見せたのです。いつもなら、鼻をツンとし、頭を高々と上げて、鼻息も荒くみんなを馬鹿にするところでしたが。

レディ・グエンドリンが最初に口を開きましたが、威張りくさって人を軽蔑しているような感じではなく、生まれたての子猫のようにつつましい様子でした。

「本当にあなたたちって、ボロボロで身分が低いと思っていたけれど、なんて優しい人たちなんでしょう! もう決して、決して、あなたたちを馬鹿にしたりしないわ。本当よ、約束するわ!」

「そうでしょうとも!」ピーター・パイパーはいつものように陽気に、そしてちょっとふざけた感じで言いました。「また誰かを馬鹿にしたら、お小づかいはあげないからね。人を馬鹿にするなんで間違ってるよ。さあ、僕の逆立ちを見て。きっと元気が出るよ」

ピーター・パイパーが稲妻みたいに宙返りを六回やり、逆立ちしてボロボロのズボンをはいた足をくねくねさせて見せると、突然、ベッドから鼻を鳴らす音が聞こえてきましたが、それは、ユベール卿が思わず吹きだした音でした。続いてフランシス卿が笑いだすと、ユベール卿は大声をあげて笑いだし、レディ・ドリスが歓声をあげ、レディ・ミュリエルがきゃあきゃあ笑い、レディ・グエンドリンと公爵夫人は、ベッドの上で発作でも起こしたように大笑いしながら転げまわりました。

「まあ! なんて楽しくてこっけいで素敵な人たちなんでしょう!」そして、レディ・グエンドリンは続けました。「あなたたちを馬鹿にしていたなんて」

「これならもうみんな大丈夫だね」とピーター・パイパーは言いました。「しょうこう熱を治すには元気づけるのがいちばん。さあ、みんなで手をつないで輪になって、家へ帰る前にもう一度、この人たちのために踊ろうよ。ちょっと汗をかいてもらうのにちょうどいいし、そうすればぐっすり眠れるよ」そしてみんなは踊りだし、踊り終えるころには、お城の人形たちはうっすらと汗をかいて羊みたいな寝息をたてて眠りに落ちていました。

おんぼろハウスへ戻ると、みんなは、シンシアのことをいっぱい話し、どうしてあんなに急にしょうこう熱のことをほっぽり出してしまったのか、ずいぶんと不思議がりました。そして、とうとうリディクリスは、自分が聞いたことを話そうと決心したのです。

「公爵夫人が教えてくれたの」と彼女はゆっくりと話しだしました。それというのも、いい知らせではなかったものですから。「公爵夫人が言うにはね、シンシアが出て行ったのはママに呼ばれたからだったんですって。ママがシンシアを呼んだのは、明日、お城のプリンセスが会いにいらっしゃることを話すためだったの。シンシアのお母さんは前に女王陛下のメイドをしていたことがあって、それでプリンセスがいらっしゃることになったの。公爵夫人が言ったのよ――」

そして、リディクリスは本当にゆっくりと続けました。

「子守がすごく興奮して、上も下もわからないくらいだって言ったんですって。それから、子ども部屋をきれいに片づけて、古いおんぼろハウスを下へ運んで燃やしてしまわなくっちゃ、明日の朝早くにって。これはね、公爵夫人が言ったことなのよ――」

メグとペグとキリマンスケグは胸にぎゅっと手を当てて息をのみ、ガスティバスは唸り、レディ・パッツィーは倒れてしまわないようにピーター・パイパーの腕をつかみました。ピーター・パイパーはごくりと唾を飲み込みました。でも、すぐに元気になれるようなことを思いつきました。

「たぶん、熱に浮かされて夢でも見たんだよ」

「そんなことないわ」とリディクリスが首を振りました。「わたし、あの人に、お湯と水とおかゆとスープとひまし油と薬草を飲ませて、身体が埋まるほど氷を置いてあげたところだったのよ。わたしたちとおんなじくらい正気だったわ。明日の朝にはこの家が、頭の上の天井がなくなっちゃうのよ」そして、リディクリスはボロボロのエプロンに顔をうずめて声をあげて泣きました。

「もし熱に浮かされていたんじゃないなら」とピーター・パイパーは言いました。「天井どころか僕らの頭がなくなるよ。君は今夜はお城に戻ったほうがいいよ、パッツィー。おんぼろハウスにいちゃダメだ」

レディ・パッツィーはまっすぐに立ち、後ろに倒れるくらい胸を張って言いました。

「あなたのそばを離れないわ――絶対!」ピーター・パイパーにはどうすることもできませんでした。

その夜がどんなに深い悲しみに包まれたものだったか、わかりますよね。みんなは一緒に家じゅうを回り、じゅうたんに空いた穴や、ボロボロで素敵なソファから飛び出した中身や、割れた窓や、ガタガタいう椅子の足やテーブルや、ボロボロの毛布をひとつひとつ見て歩きました。そして、生まれて初めてみんなのほほを涙がつたったのです。

朝の六時ごろになると、ピーター・パイパーはもう一度みんなを励ましました。

「さあ、手をつないで輪になろう」と、いつもとちっとも変らない様子で言ったのです。「輪になってもう一度踊ろうよ」

でも、そんなことをしても無駄でした。手をつないでも、踊ることができません。踊れないとわかると、みんなは山のように折り重なって、笑う代わりにおいおいと泣きました。レディ・パッツィーはピーター・パイパーの首にすがりつきました。

そしてついに、このお話を聞かせているわたし、妖精の女王クロスパッチが再び登場します。わたしはいつも、おんぼろハウス一家のような人たちが災難にあって、危機一髪というところで登場するのです。わたしは、七時ちょうどにおんぼろハウスに現れました。

「さあ立つのよ」わたしが言うと、みんな立ち上がってわたしをじっと見つめました。わたしがなんにも知らないと思っていたのです。

「プリンセスがもうすぐいらっしゃるんです」とピーター・パイパーが説明しました。「だから僕らの家が燃やされてしまう。おんぼろハウスは一巻の終わりです」

「そうはさせません! この件はわたしに任せなさい。プリンセスにここに来るように言ったのは、このわたしなのよ、あの子はちっとも気づいていないけれどね」

わたしのお仕事妖精の全軍が、子ども部屋の窓をとおってうようよ集まり始めていました。子守は子ども部屋を片付けようと一生懸命でしたが、妖精の姿を見る能力はかけらもありません。ですからもちろん、わたしの妖精たちが何百人いようと見ることができなかったのです。

子守が一か所を片付けると、妖精たちはそのあとを追いかけるように散らかしていきました。妖精たちが服をひっぱって邪魔をしたり、エプロンに乗っかってゆらゆらさせたりしたので、子守はほとんど身動きができず、わたしって一体どうしてこんなにのろまなのかしらと思わずにはいられませんでした。子ども部屋がちっとも片付かないことにとてもイライラして、おんぼろハウスのことなど、またすっかり忘れてしまいました。それに、お仕事妖精たちが、おんぼろハウスが全部隠れてしまうように、ひじかけ椅子をすぐ近くまで押したのです。

まさにそのとき、プリンセスが王宮の侍女たちに付き添われてやってきました。妖精たちは、なんとか子ども部屋がきれいになるまでは、子守に片付け仕事をさせてやったのです。

メグとペグとキリマンスケグとリディクリスとガスティバスとピーター・パイパーとレディ・パッツィーは、集まって窓から外を見ていました。離れ離れになるなんて、耐えられませんでした。わたしは大きな椅子の肘かけの上に坐って、お仕事妖精たちに命じました。号令をかけたらすぐに行動できるように準備しておきなさいと。

プリンセスは本当にいい子で、シンシアが自分の人形たちや、そして最後の最後に、あのステキなお城を見せたときも、とても丁寧に受け答えしていました。部屋や家具をみんな見て、ひとつひとつについて素晴らしいですねと礼儀正しく言ったのです。

でも、シンシアにはわかりました。プリンセスはシンシアが思っていたほど興味を持ちはしませんでした。それもそのはず、プリンセスはお城に素晴らしい人形の家をそれはたくさん持っていたので、シンシアのステキなお城くらいでびっくりすることなどなかったのです。そして、シンシアがそのことに気づいたとき、わたしは、お仕事妖精たちに命じました。

「ひじかけ椅子をどけなさい。とてもゆっくりよ、誰にも動いていると気づかせてはだめ」

妖精たちは、ゆっくり、ゆっくり、椅子を動かしました。ほんの少しでも動いているなんて誰も思いもしません。でも、次の瞬間、小さなプリンセスが喜びの声をあげました。

「まあ! あれはなに!」そう叫ぶと、ドアの陰の、あまりおしゃれとは言えない場所のほうへ走りだしました。

シンシアは全身真っ赤になり、子守は真っ青になりました。おんぼろハウス一家は窓のところで山になってしゃがみ込み、すごい早口でお祈りを唱え始めました。

「ただの古い人形の家なんです、プリンセス」シンシアが口ごもりました。「おばあさまのものだったんです。それに、ここにあるのはおかしいわ。子守、お前、燃やしてしまったんじゃなかったの!」

「燃やすですって!」プリンセスは本当にびっくりしたように声をあげました。「どうしてそんなこと。わたしのだったら、燃やすなんて絶対にしないわ! ねえ! 椅子をどかしてよく見せてちょうだい。こんな人形の家、今はどこにもないわ」そしてひじかけ椅子がよけられると、プリンセスはまるで普通の女の子のように膝をついて坐りました。

「まあまあまあ! なんて面白くて素敵なの! なんてかわいいお人形の家。確かにボロボロで直してあげなければいけないけれど、でも、わたしのおばあさまが持っていたのにそっくりよ。おばあさまはお人形の家を宝物と一緒にしていて、わたしには見せてくださるだけだったの。本当に大切にしていたわ」

シンシアは息をのみました。このプリンセスのおばあさまといえば、女王陛下だった方です。人々はひざまずいて手にキスをして、女王陛下の前では、陛下に背中を向けないよう後ろ歩きのまま部屋から出なければならなかったのです。

プリンセスはただもう嬉しくて仕方がありませんでした。そして、メグとペグとキリマンスケグとガスティバスとピーター・パイパーを、まるで本物の女王陛下のお人形のように持ち上げました。

「まあ! 本当に可愛らしいお人形たちね」とプリンセスは言いました。「素敵で不思議なこの顔を見て。それに面白いお洋服。本当に、本当におばあさまのお人形のお洋服にそっくりよ。新しいお洋服が欲しいみたい。ねえ! もとどおりにきれいなお洋服を着せてあげるにはどうしたらいいかしら。新品のときみたいに、おうちもすっかりもとどおりにしてあげたいわ」

「ボロボロのおんぼろハウスが」シンシアは息もできませんでした。

「わたしのだったら、おばあさまのとそっくりにしたいわ。そしてどんなお人形の家より大切にするの。本当に、一度も、誓っていうけれど、こんなに素敵でおかしくて気立てのいいお顔をした人形を見たことはないわ。生まれてからずっと楽しくやってきたみたい。ああ! もしこの子たちと家を燃やしちゃったら、わたし――わたし絶対にあなたを許しませんからね!」

「いいえ、そんなことは――絶対に、絶対にしません、プリンセス」シンシアは本当に驚いてたどたどしく答えました。ところが、急に前に踏み出して大きな声をだしました。

「あら、なくしたお人形だわ! レディ・パッツィーです。どうやっておんぼろハウスに入ったのかしら?」

「きっと自分から会いに来たのよ。とても貧しくてボロボロだったから」とプリンセスが言い、「この子が好きなのね」とピーター・パイパーを指さしました。「わたしがこの男の子を持ち上げたとき、しっかり抱き合っていたのを見たでしょう? 離れ離れにしないでね。あら!」プリンセスは声をあげ、ちょっと飛びあがりました。「この子がけった気がしたの」

そして、それは本当のことでした。ピーター・パイパーはうれしくて足をけり上げずにはいられなかったのです。今度は何を聞いても絶対にけらないよう、とても注意しなければなりませんでした。

プリンセスがあんまりおんぼろハウスを気に入ったので、シンシアは贈り物として差し上げることにしました。プリンセスが喜んだのなんのって。そして、お城へ帰る前に、おんぼろハウスの家族みんなを古くてボロボロで素敵な応接間、そうです、みんながとても楽しくやってきた場所に一列に並ばせて、こんなふうに話したのです。

「これからは、お城でわたしと一緒に暮らすのよ、おかしくって素敵なお人形さんたち。もとどおり、きれいなお洋服を着せてあげるわね。おうちも直してあげるわ。壁紙を貼ったり塗り直したりして、昔のようにとっても素敵にしてあげる。そして、おばあさまのように、ほかのどんなお人形の家より大切にするわ」そして、プリンセスは帰って行きました。

それから、すべてのことが本当になったのです。おんぼろハウスはお城の中の素晴らしい子ども部屋に運び込まれ、メグとペグとキリマンスケグとリディクリスとガスティバスとピーター・パイパーは、とても豪華な衣装を着せてもらったので、まるでずっといい暮らしをしてきたせいで、気位が高くなった人形のように見えました。でも、そんなことはありません。みんなはただ前よりもっともっと陽気になったのです。そして、ピーター・パイパーはレディ・パッツィーと結婚して、リディクリスは左足を直してもらい、昔のように美人に塗り直してもらいましたが、いちばんの働き者であることには変わりありませんでした。

ほかの人形の家にいる人形たちは、おんぼろハウスのみんながそばを通ると深々とお辞儀をしたものです。ピーター・パイパーは、そういうとき、逆立ちして笑いだしたくなるのをこらえるのが大変でしたが、そんなふうにお辞儀をされるのは、おんぼろハウスのみんなが王家の人形と親戚だったせいなのです。お辞儀をされるとみんなは応接間に駆け込んで、くすくす笑いの発作を起こして倒れ込みました。それを止めるには、みんなで手に手をとって輪になって、ぐるぐるぐるぐる踊り続け、かかとでステップを踏んで大笑いしながら、ついには山のように重なって倒れてしまうほかありませんでした。

さて、あなたはこのお話、どう思いましたか? 妖精のお友だちがどんなにいいものか、わかるでしょう?――とりわけ、それが妖精の女王さまだったらね。

(おしまい)
2011年1月17日号
(第4巻182号)