2. 本はどうやって読者に届くか—新刊流通の仕組み
本を作ること自体は印刷環境が整っている今、さほど難しいことではありません。しかし、作った本を全国の書店で売りたいと考えると、出版業界の流通の仕組みを知る必要があります。そこで、本が読者に届くまでの流れを駆け足ですが解説します。
■ 出版社は約4,200社、書店は約16,000
まず全体像から見て行きます。日本には出版社が約4,200社、卸業者にあたる取次会社が31社、読者に販売する書店が約16,000店あります。このほか、コンビニエンスストアが約4万店、加えてキヨスクなど駅売店、オンライン書店、さらに、スタンド、図書館、生協、新聞販売店、幼稚園・保育園、楽器店・釣具店など専門店、あるいは宗教関係、家元関係など、本や雑誌はさまざまなルートで販売されています。
■ 販売ルートの主流は書店
ここでは本の流通に絞って話を進めます
本は、出版社→取次→書店→読者という経路が最も太い流通経路で、書店ルートと呼ばれ、販売額は全体の約65%を占めています。
伸びがめざましいオンライン書店は、06年書籍・コミックス販売額の占有率は6%程度と推定されています。
■ 取次会社
出版業界は出版社と書店の数が多く、間に入る取次の数が少ないという特徴があります。そして、出版社の約80%が東京に集中しており、取次も東京にあって、書店は全国すみずみに分布するという中央集権型の構造を持っています。
取次会社は、出版社と書店の間にあって、出版社が作った本を円滑に流通させる役割を担っているわけです。
トーハン、日本出版販売が2大取次として、取次ルートの8割近いシェアを持っています。
■ 取次会社の機能
取次会社の基本機能は次の4つに分けられます。
- 商的流通機能
取次は出版社の販売代行、書店の仕入れ代行という役割を持ちます。つまり、出版社から仕入れた本を全国の書店の特性に合わせた冊数を供給し、全国の書店から販売代金を回収し、出版社に一括して支払います。 - 物的流通機能
出版社から調達した本を全国の書店に出荷する。あるいは商品をストックして書店に迅速に供給します。 - 情報流通機能
発注、返品、送品情報など物流に関する情報と、新刊情報・売れ筋情報・情報検索などをオンラインで提供します。 - リテールサポート機能
個々の書店に合わせた販売促進支援、店頭活性化の提案、あるいは経営相談、市場調査など各種のサポート活動です。
■ 取引口座を開設する
では新しい出版社が本を作って流通させるケースを考えてみましょう。
まず、取次と取引口座を開設します。口座開設にはこれからの出版計画や資金面など経営条件が整っていなければなりません。新刊を1点作ったからといって、すぐ全国の書店さんで販売できるかというとすぐには行かないのです。
ですが、口座を持たない出版社には次のような手段があります。取次にすでに口座を持っている出版社に発売を委託するわけです。カバーや奥付に○○社発行、○○社発売となっているのは取次との取引口座を持たない出版社の出版物ともいえるわけです。
■ 仕入れ交渉と配本
取次との取引口座を開設出来、新刊を製作し、いよいよ取次を通して全国の書店さんに流通させる段階に来ました。
まず、出版社の営業担当者は、取次の仕入れ窓口でどのくらいの部数をその取次の取引書店に配本するかを交渉します。
本の初版部数は、一般書で5千部から7千部、専門書で3千部、新書本で1万5千部程度です。しかし、刷った部数のうち、3割程度を手持ち在庫として置き、7割程度を書店に配本するケースが多いようです。したがって、初版部数が少ない専門書などは全国の書店の1割くらいにしか配本されないことになります。
部数が決まりますと、取次はどの書店に何部配本するかを過去の販売実績を参考にコンピュータを使って決めます。一方、現物の本は、取次の集荷窓口を経由し、新刊の発送ラインに載せられ、書店別の段ボール箱に梱包、輸送トラックに積載されて全国の書店に送られます。
■ 流通条件
- 委託制度
新刊(および大量に配本する重版商品)は委託制が中心で、返品が可能のところに特徴があります。委託期間は、出版社→取次間は6ヵ月、取次→書店間は4ヵ月です。
取次と出版社における売上げ代金の精算は委託期間の翌月ですので、出版社は新刊を取次に委託してから売れた代金が入金されるのは7ヵ月後になります。出版社を立ち上げて、新刊を作ってもお金がきちんと入ってくるまで、これだけ時間がかかりますので、運転資金が相当必要になるわけです。 - 注文品および買切品
書店が売れた商品の補充のために行う補充注文、あるいは返品が出来ない条件で流通する買切品があります。どちらも出版社は取次に出荷した翌月に代金は精算されるのが原則です。 - 常備寄託
出版社は自社商品を選定し、年間を通して展示販売する契約を書店と結ぶことを常備寄託といいます。書店は売れたら補充する義務があります。これは出版社の社外在庫といえるもので、書店には仕入に対する負担がありません。
常備寄託は専門書や実用書で多く実施されています。常備寄託品がどうかは本のスリップを見ると分かります。
■ POSと商品供給
いま全国の主だった書店ではPOS(販売時点情報管理)システムを導入しており、単品の売れ行きや購買層分析、受発注に大きな力を発揮しています。
POSは店頭でいまどんな本が売れているかが一目で分かりますので、出版社は売れ行きのペースを見て店頭の在庫状況を予測、重版をいつ行ったらよいかを判断します。このPOSのおかげで、時宜を逃さす商品を供給出来るようになりましたし、売れ筋を分析することで、品揃いの充実に結びつけているわけです。
POSが導入される以前は、本の中に挟まれているスリップ(短冊)によって、売れ行きの単品管理と分析、補充注文などを行っていましたので、POSによってスリップレスになり、情報蓄積・管理・分析能力と精度は飛躍的に高まったわけです。
■ 返品と改装
売れ残った本は返品されます。返品された本は断裁されるのでしょうか。そうではありません。書店から取次に返品された商品は、出版社の単品別に整理され、出版社に返されます。出版社の倉庫に納められた後、汚れたり、痛んだりしたカバー、帯を取り替え、再出荷されます。
したがって、月次の返品率は4割近いものであっても、再出荷することで実売冊数が伸び、結果として1点1点の最終実売率は上昇していきます。日本書籍出版協会が行った調査では、2000年の75社平均の廃棄率は8.29%でした。ですから、本の断裁=廃棄率はそう高いものではありません。
なお、本(新刊)には返品期限が設けられていますが、返品フリーという商品もあります。文庫本がその好例で、文庫棚で長期販売してほしいため、返品はフリーとしている文庫出版社がほとんどです。
文庫本を見ると、再出荷商品か否かを見分ける方法があります。本の上部(天)が波打っているのは新刊または重版商品、平らな商品はヤスリがけされて再出荷された商品というわけです。
■ 定価販売
当たり前のように思っているかも知れませんが、書店で売られている本や雑誌は値引きがありません。定価です。定価とは消費税を含めた価格をいいます。なぜかといいますと、出版物(本・雑誌)には、メーカーである出版社が定めた価格を取次や書店は契約によって守って販売するという、再販売価格維持制度があるからです。
なお、再販(再販売価格維持)商品として流通させるかは出版社の意思によって決められ、当初から定価販売を拘束しないことを部分再販といいます。また、一度再販商品としたものを一定期間後に非再販商品に変更することができます。これを時限再販といいます。
公正取引委員会はDVDやCDなど再販商品以外の商品を組み合わせて販売する複合商品について、平成18年11月、複合商品は定価表示をしてはならないとの見解を示しています。つまり、DVDを付けた本は再販商品ではないという意味です。
出版流通には細かい決め事がたくさんあるわけですが、ここでは代表的な事柄を取り上げてみました。




























