パリ狂がロンドンに住んだら
雪のはなし
抜けるような青空だった。
12月27日午前10時、パリから、およそ2時間半の飛行を終えて、私たちは、北アフリカの地に立った。友人Tにとっては30年ぶりの、夫(こちらもT)にとっても久し振りの、そして私にとっては全く初めての、モロッコはカサブランカである。
厳寒の欧州をやっと抜け出して、地中海の向こう側。頬をなでる乾いた風は初夏の朝を思わせた。

雪におおはしゃぎなのはどこの国も同じ。子供たちです。
2009年12月半ば、クリスマスを前に欧州は寒波に見舞われた。
特に大陸のほうでは、低気圧の到来もあり、北フランスののどかな平原は真っ白に覆われてしまった。
「雪に弱い新幹線」と、日本でも超高速鉄道にとって冬場は難儀なものだが、欧州では、とんでもないことに、数日間もユーロスター(仏・英・ベルギーを結ぶ国際高速鉄道;ユーロトンネルによって英仏海峡を横断する)が全面麻痺となった。
ことの発端は、フランス側から雪をたくさんかぶった列車がトンネル内を走るうちになぜだかストップ、トンネル内で立ち往生となり、乗客救出に半日以上も要したのだ。
それだけでも大変なニュースなのだが、時が時なだけに、里帰り客をたくさん抱えたユーロスターは連日トップニュースとなった。
初日の「救出作業」を終えた後も、原因究明と対策には時間がかかり、報道はもっぱら人々の混乱ぶりと困惑ぶりのみ。3日目くらいにやっと走った試運転車も、また立ち往生した。
どうにかお客を乗せて走りだせたのは、たしか5日目で、その時には、それまでの数日間に乗れなかったお客を優先するとかで、駅は大混乱だったらしい。
23日、24日の2日間で、なんとか帳尻を合わせ、25日には、「予定通り」全面休暇(英国は、25日には、地下鉄もバスも国内鉄道も、すべてお休みです)。
26日にユーロスターでパリへ行き、東京からのTと落ち合い、27日からモロッコ入りを計画していた私たちは、最後まで気が気ではなかった。
25日に、ユーロスターから「明日は通常通り運行します」というメールをもらいはしたものの、万一動かなかった時のためにと、同じ日の夕方にダブルで予約していたロンドン=パリの飛行機をキャンセルしたのは、ユーロトンネルを抜け、フランス側へ入ってからであった。


ユーロスターの発着駅である、セントパンクラスステーション。ヴィクトリア朝の美しい駅舎の一番奥に、近代的なガラス張りのユーロスター乗り場があります。今日も、またまた乱れた(間引き運転+遅延)ようで、改札口は、ひっそりでした。
寒波にまだまだ喘ぐ欧州です。ところで、今回のこの‘大事件’ののち、つい最近、ユーロスターのCEOから頻繁に利用する大顧客に宛てて、お詫び(言い訳?)メールが送られた。
その説明によると、
「主たる原因は、北フランスにおける異常寒気と大雪氷である。高速鉄道は、走行速度があまりにも速いためたくさんの雪をまとった。だが、トンネル内に入るとその気温の高さからいっぺんに雪が溶け、大量の水や結露が電気系統を麻痺させた・・・」
のだそうだ。
「トンネル内の‘隔離’は過去にもあったが、何といっても満席の列車5台分が同時に立ち往生したのは初めての経験であり・・・」
まぁ、確かに、電車の遅延など、交通ダイヤが思うようにいかないのは欧州の常である。(日本が正確に動きすぎるのかもしれない)
しばしばユーロスターに乗っている私も、実は、すでに2回も迷惑を被っており、昨秋には、その「代償」として、只でロンドン=パリを往復してきたくらいだ。
チューブ(ロンドンの地下鉄のこと)の滅茶苦茶さ加減は、「世界で一番長い歴史を持つ地下鉄網」という最大の賛辞を述べつつも、とても許される範囲ではなく、つまり日常茶飯事。
地下鉄に乗る前は、必ず改札口の「運行状況板」を確認して、Good Serviceという文字を見てから乗ることにしているのだが――だいたい、こんな掲示板があること自体が、日本人には信じられない!――それでも裏切られ、動かない地下鉄に閉じ込められることもある。
ロンドン名物の赤い二階建てバスも、路線の途中で、突然、行き先変更したりする。
だから、交通のことで必要以上にイライラはしない、というかわいそうな(?)習性が私たちには身に付いてしまっているが、「故障の原因がすぐに分からないなんて」という点では、大いに呆れた。そして、いつものように、「日本の鉄道ならこんなことはないわよね」となるのだった。
「地球温暖化」「CO2削減」が叫ばれて久しいが、このところの欧州の大雪は一体何なのだろう・・・。フラットの暖房の調節つまみを全開にしながら、本当に皮肉なことだと思う。

地下鉄改札の掲示板です。文字を読み取っていただけますでしょうか?
しかし、なにはともあれ、私は27日にはモロッコにいた。
初めて見る景色が、初めて吸う空気が、初めて感じる‘未知の国の気配’が新鮮なのは当たり前だけれど、「30年ぶりの3人旅」がどんなふうに展開するかを知らない私に、北アフリカの紺青の空はとてもまぶしかった。

ロンドン(ウェストミンスター区)の名誉のためにこんな写真も加えました。我が家の周辺、つまり都心では、横断歩道にさしかかる舗道のところに、塩入の砂を大量にまいてくれます。
(第4巻145号)





























