パリ狂がロンドンに住んだら
道のはなし
車を運転する人は、全世界どこでも、一応(と言わないと、どうやら広い世界には、信号のきちんと機能していない国もないわけではないらしい)交通規則を守り、信号には特に注意しているが、ひとたび歩く人になるやいなや、その態度は千差万別となる。
赤信号を無視できるかどうか……
「赤信号みんなで渡ればこわくない」という惹句がだいぶ以前、日本で流行ったことがあった。そういった現象が起きるということ事態が、「赤信号では待つ」というまじめな日本人の性格を表しており、社会の常識ともなっているなによりの証拠である。
それでは、ここロンドンでは?
ロンドン人もパリ人同様、信号に“支配”されることは好まないようだ。歩いているほとんどの人は、幹線道路を除き、信号の存在など“無視”である。
私も、小さな子供を連れている時やお年寄りと一緒の時は別として、赤信号には従わない。左右を見て、車がいなければ、自分の意思で道を渡る。
ロンドンの道は親切なことに、横断歩道のところで、左を見よだとか、右を見よだとか指示してくれるので――LOOK LEFT とかLOOK RIGHT と、道路にでかでかと書かれている―― 尚のこと安心感をもってその方角を見て、そして車の影がなければ第一歩を踏み出すことにしている。



道路の文字や印
パリの街は、ここまで親切ではない。道路には何も書かれていないし、文字通り自己責任なのだが、でもその割には私も含め人々は皆、のんきな感じで当たり前のように、信号などお構いなしに歩いている。
どちらの都市も、太い幹線道はまれで、一方通行や細い道路が多いからそれも可能なのかもしれないのだけど。
さて、ロンドンの「至れり尽くせり」の道路の文字だが、これらは当然アルファベットで、日本語を母語とする私としては、さほど悪い印象を持たずに眺めているのだが、これが、日本で、もちろん日本語で、「右を見よ」などと道路に書いてあったらどうだろう?
安心感というよりは、ちょっと嫌悪感をもって「余計なお世話よ」などと思いながら道を渡るのではないだろうか。
生活の中に、ずかずかと入り込む標語は、実はあまり好きではない。街の美観を損ねていると思うからだ。「お知らせ」は最低限でいい。必要な情報が得られないのは困るけれど、「おせっかいな指示」は目障りなだけである。
だから、英語を母語とする人々はこの親切すぎる道路の文字をどんな風な気持ちで読んでいるのだろう、とLOOK・・・を見ながら、時々思う。一度、誰かに聞いてみたい。
よく分かり過ぎる母語の標語への私の嫌悪感は、今に始まったことではない。
子供の頃、新宿あたりだったろうか、高架下の薄暗いコンクリートの壁に、「小便禁止」などという身も蓋もない文字を読み、とても傷ついたことがあった。そのデリカシーのなさだけでなく、そういった男たちが存在することが純粋に耐えられなかった。口に出したくない、目にしたくない言葉だって、世の中にはあるのだ。なんで、そんなことを大の大人が分からないのだろう! と、少女は怒っていた。
ところで、ロンドンの交通規則(運転者にとっての)は、日本と同じようにかなり厳しい。特に駐停車に関しては、異常なほどの細かさで、駐車用区画から10センチでもはみ出して停めることは許されないし、停車してはいけない場所には、これもまたご丁寧に「空けること」と書いてあったりする。
路上駐車を大幅に認めている都市だからか――いや、パリだって路上駐車は常識だけど、ここまで印をつけることはない――、何しろ、ロンドン中心部の車道の路肩(歩道との境目)にはすべて線が引かれているのだ。黄色線2本は、絶対駐車禁止。1本なら、夜や日曜なら駐車してもいい。赤の2本線は、いかなる時も駐車のみならず、停車もだめ。1本なら、場合によっては停車OK、等々。
そのほか、ギザギザ線や、格子模様もあって、知らない所で車を止める時は、いつも少しドキドキする。これらは、印(記号?模様?)であって、文字ではないから、嫌悪感はないけれど。
さらに、道が交差するところ、優先権を譲らねばならない道のほうには、1本ないし2本の白い破線が引かれ、たまに、ご丁寧にGIVE WAYの文字。ああ、またか!
もっとも、普段しょっちゅう運転している地域では、慣らされてしまって、「これも結構、便利だヮ」などと思う時もあるから、私も勝手なのだけど。
それから、あちらこちらに設置されたゼブラ横断歩道。これは、日本にもフランスにも存在しない「完全歩行者優先横断歩道」で、歩く身になれば、大変ありがたいものだ。ただし、美観という点で、満点かどうかは、少し疑問。

ゼブラ横断歩道(あらあら、せっかくゼブラがあるのに、どこを渡るの?)
パリの運転は――皆さんが「あの、入ったら出られないという凱旋門の周りも運転したんですか!?」と驚いてくださるが――「右優先」さえ頭に入れておけば、あとはあうんの呼吸で、左ハンドル右側通行にもかかわらずスイスイと運転していた(つもり)。“フランスの交通規則”というような冊子は買ったこともなかった。
日本と同じ左側通行だから、と英国運転事情をややなめていた私は、『イギリスを走る』という本を読みつつここロンドンで、ビクビクしたり、呆れたり、うんざりしたり・・・ちょっと忙しい。

広めの一方通行の道。中央分離帯脇も含め、4列もの路上駐車スペース。





























