進行中の話
5月から7月にかけて全6回の連載をいたしましたが、ふたたび(また6回の)原稿を書くことになりました。今度は、とくに話題を絞らずに、現在進行中のメモのような形で、たまたま思いついたこと、気になったことを書き留めようと思います。前回の連載をお読みくださった方々は、私がどういう考え方をしたがるのかおわかりでしょうから、そのぶんだけ読みやすいかもしれません。また、かかえている仕事からして、F. Scott Fitzgerald の例文が多くなるはずです。(もちろん、書いても大丈夫と思うことしか書きません。自分に都合の悪いことは、あくまで非公開です。)
では、とりあえず「進行中」の一例で、"The Rich Boy"という短篇から。金持ちの男が、ある別荘へ来て門番に問いかけるセリフです。"When are you making a round, Carl?"
あまり誤訳する余地はないでしょう。どう書いたっていいようなものですが、進行形をどうしようか、というところは気になりますね。中学校の試験答案なら「いつ巡回をするのですか?」と書いてマルがもらえる。まさか小説の翻訳としてそのように書く人はいないでしょうが、さりとて「いつ巡回するのかね?」と書いたとしても、たいした違いはありません。日本語と日本語の言い換えをして、直訳だの意訳だのと言い立てるのは、最低レベルの議論であって、そういう仲間に入っていては進歩がないでしょう。
ひとつ基本文法の復習をいたします。よく「未来形」と言ってしまいますが、英語には未来専用の動詞活用はないのですから、何かしら別の表現で代用するのですね。その一つとして、「進行形」も「未来」のために使えるというお約束ができている。現在とつながっていて、すぐ延長上にあるような未来です。どこかに「意志」がつきまとうwillも、やはり未来向けの用途を持たされていますが、「つながり」意識は薄れるはず。また、ただの「現在形」が、これから先のことまで含めている場合もあります。いずれにしても「未来」だけの意味ではなくて、それぞれの性格を引きずっていると考えたほうがよろしい。(詳しい議論は文法の専門家にまかせます。ただ、翻訳業者といえども、文法嫌いでは営業できません。)
さきほどの例に戻ると、どう訳す結果になってもよいけれど、"When will you make a round?"とは違うのだということを、いったん意識する必要はあると思います。原文が進行形ということで、「巡回」を既定の路線とする質問だと判断してよいでしょう。ほどなく巡回するはずだと知っていて、それがいつなのか尋ねたのではないか。そんなニュアンスが文脈上もぴったりなので、いまのところ私の原稿では「巡回は何時だったかな、カール」になっています。
もう一つ、私の仕事とは関係ありませんが、おもしろい例を思い出したので紹介します。昨年、いまでも火星に水があるかもしれないという報告があって、それについてSF界の大御所 Ray Bradbury がインタビューされたときの発言が、"It's nice to know that water's there, because we're going to need water"でした。この because 以下の部分に、進行形の教材としての利用価値がありそうです。水が必要だ、ということを既定の問題として、あたりまえのように言ってのけたところが愉快ではありませんか。老大家が大喜びしたのではないかと思われます。もし訳すとしたら、こっちも目を輝かすように訳したいですね。どうしましょう。「いいねえ、どうせ行けば水は要るんだから」という気分だと思いますが。




























