『ママ・ショップ』〈あとがきにかえて〉
2009年9月、年明けからかかえていた児童書が本屋にならびました。『ママ・ショップ 母親交換取次店』
(主婦の友社)。
みたいテレビがあるのに、みせてくれないママ。よそのママだったらよかったのに。そういった11歳の男の子オーリはママに「ママ・ショップ」につれていかれて。そこではすきな条件にあうママと交換できるんだって! よし、これでおもいっきりテレビがみられるぞ! ところが、いろんな事件がおきて…。
原作を紹介されてリーディングをしてから1年、こんなに丁寧でじっくり手をかけた本づくりは初めてでした。良書を子どもたちに、という児童書の本づくりでは当然のことかもしれません。それにしても時間をかけました。校正が4回目にはいったときには、先輩翻訳者に思わず、「やっぱ、わたしの訳じゃ不安なのかなあ」ときいてしまったほどです。返事は「別に不思議でもないよ、丁寧に作っているだけ」。
リーディングから1年ですが、リーディングにいたるまでがけっこうドラマチックで、今思えば、おもしろくて刺激的な日々でした。
そもそものきっかけは、現在、WEBマガジンで「原田勝の部屋」を執筆中の原田さんと2007年に再会したことです。学生時代に一緒にテニスコートを走り回っていた原田さんとは、卒業してからはまったく会うこともなく、参加しているテニス部のメーリングリストを通じて、児童書・ヤングアダルトの翻訳者としての活躍をまぶしくみていただけでした。再会時のようすについては「原田勝の部屋」のプロフィールをごらんください。
昔話に花を咲かせ、近況を話しているうちに、「主婦の友社の編集さんに会ってみる?」 家族や地域の福祉活動など、それまで肩にのっていたさまざまな重荷から少しずつ解放されて身軽になりつつあった矢先、これからどう翻訳の道をつけようかなあ、と思案していたわたしにとって、翻訳者として大先輩の原田さんの誘いは、願ってもない天の声みたいなこと。児童書の編集者ですが、もしかしたら一般書もみてもらえるかもしれないと期待しつつ、紹介してもらうことにしました。
まずは一歩踏みださなくちゃ。
初めて編集者に会いにいくのに、手ぶら、というわけにはいきません。ちょうど洋書の森で借りた本のレジメを書いたところで、どこへもっていったらいいのかわからなくて困っていました。わたしの文章をみてもらえるだけでもいい、と考え、それを「手土産」にすることにしました。「翻訳の海」の翻訳道場で使った「コッパー」です。
手土産のレジメはみごと撃沈! すでに一度検討してボツになったものでした。でもわたしの文章をみてもらえたこと、そしてその編集者と知り合えたことだけでも良しとしよう、と思いました。とても素敵な女性なんです。母親であってキャリアも十分、そしてなによりも気もちが柔らかい人。この人なら良書をみつけるだろうし、もし仕事をさせてもらえるなら、どんな指示も素直に受けいれられそう、わたし自身気もちよく仕事ができそう、と思いました。
その後、もう一冊、やはり洋書の森でみつけた本のレジメを持ちこみ、社内の会議にかけられるところまでいきましたが、残念ながらそこまで。最後まで進みませんでした。ちなみにこのときの本、後日別の出版社からでたことがわかりました。けっこういい線いってたんですね。
それから数カ月後、思いがけず電話をもらいました。大人むけのノンフィクション2本のリーディングをしてくれないか、と。もちろん二つ返事で引きうけました。せっかく顔がつながって、電話をもらったんです、まだ地域の福祉活動から手をひけず、時間的には苦しい時期でしたが、やらなくてどうする!
短い方は270ページほど、長い方は350ページ、期限はそれぞれ2週間。まもなくそのうちの長い方が編集会議を通り、いよいよ久しぶりの翻訳の仕事へ…とおおいに期待して連絡を待っていました。ところが、競合相手にとられてしまったと。「どこの出版社かは教えられないけれども、そのうちに本屋さんにならぶでしょう」といわれたときには、あ、幸運がするりと逃げていった、まだわたしじゃだめだ、ってこと? これもよそからでたのを確認しました。二回続くと、めげるものです。
こうして「ホップ、ステップ、ジャンプ」のジャンプをしない2007年が暮れました。
長らく関わってきた地域の児童福祉の仕事が2007年暮れでお役御免になったので、2008年は翻訳にたっぷり時間を使えるようになりました。とはいうものの、相手(出版社)あっての翻訳、すぐになにかが動きだすわけではありません。レジメを手土産に、忘れられないように出版社を訪ねたり、原書をあさったりして、焦りを感じながらもじっと我慢の日々を過ごしました。
そして9月、主婦の友社の編集者から久しぶりの連絡がありました。リーディング2本、児童書です。もともとは大人むけのフィクション・ノンフィクション、できれば女性の生涯を描いたものを訳したいと思っていましたが、児童書もきらいではない。娘たちが小学生のころに買い与えた本は、どれも一緒に楽しく読んでいたし、最近では「ハリー・ポッター」を全巻読んだし。けれど児童書は大人むけの本以上にしばりがあって、きっと大変だろうなあ。でも、これまで何本かのレジメを提出してわたしの文章を読んでもらった。まだ一年かそこらのつきあいだけれど、それでも話をする機会があった。そんななかでわたしに声をかけようと思ってくれた。これは引きうけるっきゃない!
「わたしでいいんですか?」とたずねる前に「やらせてください」といっていました。本は200ページ弱のものと300ページのもの。期限は短い方が1週間、長い方が2週間。
こんなリーディングは初めてでした。どちらも楽しかった! 読みながら笑ってしまうことが、一度や二度ではありませんでした。それに読みながら訳文が頭の中にうかんできた! 相性がいいらしい。あとは編集者の判断待ちとなりました。
このとき編集会議を通ったのが短い方、『ママ・ショップ』。そして年内に正式に翻訳が決まり、2009年の松がとれて早々に原書が送られてきました。なんという順調な進み方でしょう。前回の「競合相手にとられて」だめだった話とは大違い。幸運の女神がようやくこっちをみてくれた結果でした。
それにしても、初めて会ったときに「児童書に興味あります?」と聞かれて、「児童福祉の活動をしてますから、興味はあります」と答えていてよかった。そうでなければ『ママ・ショップ』は他の人が訳したはず。それに児童福祉の活動に関わっていてよかった。訳者経歴の欄にならぶ訳書は、ドミンゴやオードリー、または神話といった大人むけノンフィクションだけなので、「児童福祉」を一言添えることで、ぜんぜん関係ない人ではない、と思ってもらえるかもしれないから。
何が幸いするかわかりません。出会った人、やってきた活動・仕事、すべてが次の仕事につながる。翻訳とは関係なさそうなことでも、今やっていることは大事にしよう、と思えるようになりました。みなさん、ありがとうございました。これからもどうぞよろしく!































