入門翻訳勝ち抜き道場

エッセイ:翻訳の現場から

シンチャオ、ベトナム! (第2回)

ベトナム料理と、ドリアンと——
長崎祐子
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ベトナムのカラフルなお菓子
ベトナムのカラフルなお菓子(たぶん寒天が原材料)。感動する美味しさではないが、話のネタに食べてみるのもいいかもしれない。

旅の楽しみのひとつといえば、その土地の食を堪能すること。

ただし私の場合、ひとつだけ問題がある。

幼い頃から主食はコメ。女性でありながら、どんぶり飯一杯はペロリといける大食漢の私。長年染み付いた食生活はなかなか変えられないものらしく、とにかく毎日お米を食べないと調子が出ない。それゆえ、美味しいお米が食べられない国は、正直つらい。

ちょくちょく飲みにいく翻訳編集の方も、海外で開かれるブックフェアの際には「日本食を食べないとハードワークはこなせない!」と嘆いていた。彼と同業者の間では、美味しい日本食レストランの情報が頻繁に交換されているんだとか。お米は“日本人の活力”なのかもしれない。

だから、旅をするとき一番気にかかるのは「その土地にコメはあるか」だったりする。

その点で、ベトナムは理想郷ともいえる国だった。

炒飯などコメ料理があるだけでなく、ヌードル類でさえがコメからできている。全般的に何でも美味しくて、「ベトナムなら住めるかも♪」と思わせてくれた。

ベトナムといえば「フォー(Pho)」である。さっぱりとした鶏ダシのスープに、透き通るようなヌードル。上には牛肉などが乗せられている。それにスダチをキュッと絞って食べる。

もうひとつ有名なのが「ゴイクン(生春巻き)」。野菜とエビなどがライスペーパーで包まれていて、日本の創作居酒屋などでは既に定番メニューと化している。暑さにバテていても、どちらもお腹にスルッと入るのでありがたい。

さらに嬉しいのは、多くの料理に香草などの野菜がたっぷり付いてくるところ。揚げ物も野菜で包んで食べるので、胃にもたれないし、体内がクリーンになっていく気さえする。ベトナム女性のほっそりした体つきは、この食生活から生まれるのかもしれない。

食費も安い。もちろんピンからキリまでだが、フォーは日本円で200円前後。1000円あれば前菜、スープ、メイン、ジュース、デザートまでのフルコースをお腹いっぱい堪能することができる。そのため、滞在費はホテル代を除けばたいしてかからない。

現地のベトナム人も「自炊するより安くて美味しい物が食べられる」ということで、近くの屋台などで外食することが多いという。

ちなみに、屋台料理にも挑戦しようと思っていたが、またしても現地の旅行会社から
「屋台料理は絶対に食べちゃダメ! ボクたちでもたまにお腹こわすよ〜っ!」

と言われてガックリ。それでも挑戦してやろうと目論んでいたが、市場や街中で走り回るネズミを見て断念した。

それはさておき、私は今回の旅で挑戦したいことがあった。

12年前、姉と一緒に香港に旅行した時のこと。魚市場に隣接するレストランに行く途中、生ゴミのような、えも言われぬ異臭が漂ってきた。しかし、周囲を見渡してもゴミらしき物は見当たらない。「あ、あれだ」と姉が指差したのが、一軒だけポツンと建った八百屋の店先に並べてあったドリアンだった。

世の中にこんな臭い食べ物があるのか、と当時中学生だった私の記憶に鮮烈に残った。

しかし、臭いとはいえ「果物の王様」とまでいわれるドリアン。恐いもの見たさなのか、いつか挑戦してみたいと考えていた。

折よくベトナムの5月〜10月までは、ドリアン、ランブータン、ロンガンの収穫シーズン。地元の人は市場や屋台で量り売りをしてもらい、道端で食べていたりする。

ドリアンは30cm 級の巨大な物から、10cm 程度の小さなサイズまである。分厚い皮にナイフをいれると、中には実がぎゅうぎゅうに詰まっている。私は食べられない時に備えて、実を一房だけ買った。

不思議なことに、ベトナムのドリアンは全くといっていいほど悪臭がない! 癖のある臭いはあっても、生ゴミのような臭いは皆無。

恐る恐る口に入れてみると、ねっとりした口当たりと、上品な甘みが想像以上に美味しかった。案ずるより産むが易いとはこのことかも。

ただし食後、口の中は妙な臭気でいっぱいになる。人と会うとき、デート前には食べないほうが賢明みたい。

翌日参加したバスツアーでは、ガイドが「誰か車内にドリアン持ち込んでいる!?」と騒いでいた。“王様”のくせに、バスやホテルには持ち込み厳禁なんだって。

付記:前回は「チャオ、ベトナム!」となっていましたが、「シンチャオ」はベトナム語で「こんにちは」という意味です。)