豪に入ってはOZ(オージー)に従え
ケアンズOL生活 VOL.4 クリスマス

家の近所で見つけたクリスマスイルミネーション。昼間に見ると変哲の無い普通の家だが、夜になると通りの中で忽然と浮き上がって見える。
オーストラリアに来て今年で6度目の新年を迎えたが、おせち料理も年賀状も無い真夏のお正月は、何年経ってもピンと来ない。これはクリスマスも同じで、街のイルミネーションも日本ほど派手ではなく、サンタもこの暑さではプレゼント配りも無理でしょうという真夏のケアンズでは、クリスマス気分がいまひとつ盛り上がらない。去年のクリスマスには自分の中でクリスマス気分を盛り上げようと、YouTubeで山下達郎の定番「クリスマスイブ」を繰り返し聞いたりしてみたが、映像に出てくる駅のホームで恋人を待つコート、ブーツ姿の女性と、団扇片手にムームーに近い格好の自分には大きな隔たりが有り、達郎節に酔うことも出来なかった。
もちろんそんなふうに感じているのはオフィスの中では私だけ。真夏のクリスマスしか知らないオージー達にとっては暑いクリスマスこそがクリスマス。12月に入るとクリスマスを前にオフィス全体がソワソワとした雰囲気になっていく。取引先やお客さんから続々とクリスマスカードが届き、オフィス内にもクリスマスのデコレーションが施され、スタッフもその日の気分でトナカイのヘアバンドをつけたり、サンタの帽子を被ったり。オーストラリアではクリスマスは一年に一度の最大のお祭りなのだ。
会社で一番のクリスマスイベントといえばクリスマスパーティ。レストラン等の一室を借りての総勢50名を越すパーティとなる。スタッフのパートナー(結婚している、いないを問わず)も招待されるこのパーティを、社員は皆毎年楽しみにしていて、その日のためにドレスを新調する女性スタッフも多い。パーティが近づくと、「あなた何を着ていくの?私はね・・・」と、オフィスの中でドレス談義に花が咲く。会社のパーティとはいえ、驚くほど皆気合が入っているのだ。
パーティでは皆、よく食べ、喋り、笑い、飲み、そして踊る。
こちらのパーティや集まりで驚くのは、皆が平等によく話すということ。その時食べている物の感想から発した会話は、レストラン批評、自分のお勧めのお店、海外旅行で食べたゲテモノ、海外でのカルチャーショック、世界平和、政治批判とグングン展開していくのだが、23歳の受付の女の子も、40歳のゲイの営業マンも、50歳の社長も、どの話題についても自分の意見を対等に表現する。日本に居た頃から聞き役に回るほうが多く、今は更に言葉のハンデを背負っている私には、オージー達の全員参加型会話についていくのはかなり大変だ。
ジョークを話すのも皆大好き。私にはすぐに内容が理解できず、一歩遅れて笑う冗談もあるが、とにかく皆よく笑う。
飲み方も豪快だ。西洋人とアジア人は体の中でのアルコールの消化のされ方が違うそうだが、オージーは浴びるように飲んでも泥酔することが少ない。去年のパーティでも、皆夜中まで飲み続けていた。
そしてダンス。日本でOLをしていた頃、会社の飲み会の二次会に連れて行かれるカラオケスナックで、しつこく「ダンス」に誘う上司がいたが、その「ダンス」は必ず「チークダンス」を意味していた。仕事の上ではその上司のことを尊敬していたが、ミラーボールの下で、誰かのカラオケに合わせて上司と「チークダンス」を踊らなければいけない理由がどうしても理解出来ず、いつも口実を作っては逃げ回っていた。ここでのダンスはもちろんチークダンスなんかではない。ロマンティックな曲が流れれば、体をぴったりと寄せ合って踊るカップルも中にはいるが、普通は皆好き勝手に体を動かしているだけだ。パーティではもちろん、普通のレストラン等でも生バンドが演奏していたりすると、ダンスコーナーがなくても踊りだす人も多い。オージーはダンス好きなのかもしれない。
去年のクリスマスパーティも終わり、クリスマス休暇に突入する二日前、私は社長から会議室に呼ばれた。新年度の手帳を社員全員にクリスマスプレゼントとして配りたいので、皆にわからないようにギフト用にラッピングして欲しいと言う。一昨年のクリスマスには、その直前に数百万ドルの取引を成功させた社長から社員全員に金一封が出たのだが、売り上げが振るわなかった去年は特別金も出なかった。社長はせめてその代わりにとでも思ったのだろうか。新年度の手帳はうちの会社のフランチャイズで作っている独自の物で、今迄は営業マンだけにしか配布されていなかった。A4サイズのこの手帳はデザインも斬新で使い勝っても良さそうで、私は常日頃から欲しいと思っていた。この歓迎すべきクリスマス極秘任務を果たすべく、私は会議室にこもって中からバリケードをはり、1時間半かけて35冊の手帳のラッピングを終えた。
そして翌朝。会社に来てみると同僚たちの机の上にはラッピングをした手帳が一冊ずつきれいに置かれていた。既に包みを開けてみたスタッフもいて、「きれいにラッピングしてくれたのはあなたでしょ?ありがとう」とお礼を言われた。その日から休暇に入り、既に東の島へと飛んで行った社長が、前の夜に各自の机の上に配って回ったようだ。私にもついに憧れの手帳を手にする時がやってきた。ワクワクしながら自分の席に行ってみると…無い!私の机の上には手帳が無い!他の机を全部チェックしてまわったが、手帳が置かれていないのは社長と私の机だけだった。どうやら社長は自分の一番近くに座っている私の机を見落としたらしい。どうして自分の一番傍に居て、ラッピングを頼んだ私のことを忘れることが出来るのだろうか。ガックリすると同時に、何ともうちの社長らしいと笑い出したくなった。前の日にラッピングをした会議室に行ってみると、ラッピングした数冊の手帳が残っていた。私はコッソリと一冊を抱えて自分の席へ戻った。「来年は社長からのプレゼントが私にも届きますように」。オーストラリアに居ればサーフボードに乗っているに違いないサンタに向かって祈ってみたら、「No worries(No problemの意味)」とオーストラリア訛りの英語でウィンクをしながら答えてくれるだろうか。


























