入門翻訳勝ち抜き道場

エッセイ:ケアンズ便り

ケアンズ便り:その11

豪に入ってはOZ(オージー)に従え

熊谷美保
[ profile ]

オーストラリア社会事情~ボブ・ザ・ビルダー

ボブ・ザ・ビルダー Bob the builder
オーストラリアの子供達に大人気の“Bob the builder”。ビルダーのボブは言葉がわかるクレーン車やミキサー車等と一緒に、色々な作業をこなしていく。
http://www.youtube.com/watch?v=CZnYzD-LnSU

オーストラリアの子供達に人気のテレビ番組に「ボブ・ザ・ビルダー」というアニメが有る。こちらに来た直後にホームステイしていた家で、その家の二歳の女の子と一緒に初めて見て以来、私はこの「ボブ・ザ・ビルダー」の大ファンになってしまった。子供番組と侮ることなかれ、元々イギリスで生まれたこのアニメ、オーストラリアの社会構造を学ぶのに、非常に適しているのだ。

まず主人公ボブの職業が建設業(大工)というところが、とてもオーストラリアらしい。日本で建設業というと、「ブルーカラー」「肉体労働」と子供漫画の主人公にはなりにくいイメージだが、ここオーストラリアではそのとらえられ方が全く違う。

オーストラリアには、私達日本人の多くが目標とする「一流大学を卒業して一流企業に入る」という概念が社会の中に存在しない。「自分がやりたい事、得意なことを仕事にして独立し、仕事と生活の両方を楽しむ」ことが多くのオージーの目標だ。「大企業の歯車として誰かの下で働くよりも、自分が自分のボスとなって働くほうが良い」と考える人が多い。これはこの国が日本のような企業依存型の社会ではないことが一番の原因だと思うが、そう遠くない昔に、祖先達が自分達の手で国を作り上げてきたという歴史も、オーストラリア人の独立心の強さと関係しているかもしれない。

こういった社会の中で、技術職で独立しやすい建設業は子供にも大人にも人気の職業だ。建設業の他にも、電気技師、配管工、タイル職人といった家やビルの建設や補修に携わる職業の人たちはトレーズマン(Trades man)と呼ばれ、高所得の人も多く、オーストラリアでは社会の中でも尊敬される職業である。

オーストラリアの住宅事情との関係もある。家のリノベーション(増改築)が日本よりもずっと頻繁に行われるこの国では、多くの人にとってトレーズマンはなくてはならない身近な存在。テレビでも視聴者の家を短期間で改造して見せる番組や、リノベーションのノウハウを紹介する番組がゴールデンタイムに頻繁に放映されており、そこに登場するビルダー達は俳優並みのルックスの良さで芸能人のような扱われ方をしている。ビルダーが子供番組の主人公の職業に選ばれるのも不思議ではない。

最近ここケアンズでも日本人のトレーズマンを見かけるようになってきた。ケアンズに住む日本人の職業といえば圧倒的に旅行関係が多いのだが、景気に大きく左右され、拘束時間の割には報酬が低いと言われる旅行業に見切りをつけ、自分の腕が良ければどこでも仕事が出来るトレーズマンの世界に、アプレンティス(見習い)として入る人達が出始めたようだ。手先が器用で真面目な日本人のトレーズマンが独立した暁にはきっと重宝されることだろう。たまにガソリンスタンド等で、頑強なオージートレーズマンのトレードマークであるバンやユートと呼ばれるトラックから、華奢で小さな日本人が降りてくるのを見かけると、思わず駆け寄って言って「頑張ってください!」と声を掛けたくなる。ケアンズで日本版ボブ・ザ・ビルダーを見かけるのもそう遠くはなさそうだ。

「ボブ・ザ・ビルダー」には準主役としてウェンディという女性が登場するのだが、このウェンディの紹介のされ方がまた素敵だ。

「ウェンディはボブのビジネスパートナーです」と、紹介されるのである。
部下でも妹でも恋人でも奥さんでもなく「ビジネスパートナー」なのだ。「男の主人公に対して女の準主役が登場すれば、そこには恋愛関係が無いはずがない。ビジネスパートナーなんて言ったって、本当は恋人同士なんじゃないのぉ~?」オバサン根性丸出しで、二人の関係がわかる証拠を掴んでやろうと番組を食い入るように見ている私とは違い、こちらの子供達は「ボブとウェンディはビジネスパートナー」という関係をそのまま受け入れて満足している。現代のオーストラリアでは、女性でも仕事上で対等なパートナーになるケースが少なくない。オーストラリアの子供達にとっては「女性がビジネスパートナー」という状況に特に違和感を感じないのだろう。

「ビジネスパートナー」のウェンディは、現場に出向いてボブと一緒に肉体作業も行う。オーストラリアの実際の建設業界では女性の数は未だ少数派ではあるが、それでも「建設業は男性の仕事」と決めてしまっているのではなく、アニメの中で女性が肉体作業をすることに対しても子供達は抵抗を持たない。

子供の頃から「性別」によって制限を付けることの無いオーストラリア社会の未来は明るいと思う。

自由な発想、差別の無い社会、「ボブ・ザ・ビルダー」が教えてくれるのはそれだけではない。

あるエピソードの中で、催し物会場の設営準備をしていたボブ達が、開場直前に予期せぬアクシデントで会場が滅茶苦茶になってしまうという事態に直面する。その時にボブが言った言葉が「大変な問題も皆で協力して一緒に働けば解決できるさ」というものだった。大変シンプルなこの言葉、最近どこかで聞いたことがある。そうだ、未曾有の世界金融恐慌に直面し、国を建て直そうと強いリーダーシップを示す「あのお方」が言った言葉と同じではないか。

また、ボブとその仲間達は仕事にとりかかる前にいつも”Can we fix it?” “Yes we can!”という掛け声をかけてから仕事を始める。"Bob the builder, can we fix it? Bob the builder, yes we can!”というフレーズは、テーマソングのさびの部分でも使われている有名な文句だ。
そういえば”YES WE CAN!!”という言葉も「あのお方」が選挙運動の時に繰り返して言っていたフレーズではないか。

私が知っている限り「ボブ・ザ・ビルダー」のテーマソングは6年以上前から流れている。ということは、”Yes we can!”を初めに使ったのは「あの方」ではなくボブではないか。
オバマ大統領、あなたも「ボブ・ザ・ビルダー」の隠れファンですね?

2009年6月8日号