入門翻訳勝ち抜き道場

エッセイ:翻訳の現場から

創元社「アルケミスト双書」誕生エピソード

藤田優里子
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この度、洋書の森から『ルーン文字 古代ヨーロッパの魔術文字』(創元社)を出版させていただきました。書籍との出会いもそうですが、それが出版に結びつくまでにも、ご縁としかいいようのない出会いがあるように思います。熱意は必要ですが、熱意だけではどうにもならない部分があります。これを「運」とか「タイミング」ということばで一括りにしてしまうのもどうかと思いますが、そう思っていたほうが精神衛生上よいかもしれません。いつか、この書籍に共感していただける出版社、編集者さんに出会えるに違いないと思っていられますから。とにかく、一度二度(あるいは、十度でも)、NGを出されたぐらいでメゲてはいられない。気長に挑戦し続けることだと思います。

創元社の編集長・渡辺明美さんとお目にかかったり、お話しながらの作業は、Wooden Booksシリーズのご紹介から、決定まで、です。また、出来上がったあとのさまざまな手配など、直接的、間接的に引き続きお世話になっています。印象的だったのは、出版が決定するまで、話が一気に進んだことです。物事がうまく進むときというのは、こういうものなのでしょうか。まさに、流れに乗ったという感がありました。

2008年1月、〈洋書の森〉書架整理でWooden Booksシリーズを見つけました。その日は、藤岡啓介さん、斎藤静代さん、桃山まやさんと作業をおこなっていました。藤岡さんが、「こんな本があるね」と本棚から取り出したのをよく覚えています。凝った装丁の、ミニチュアサイズの本に、皆で歓声をあげました。そして三人で一冊ずつ借りていくことになります。私が持ち帰ったのは、『シンメトリー』でした。装丁も銅版画の挿絵なども、まさに私の好み。うきうきしながら、帰途につきましたが、このときはまだ、出版できるとは思ってもいませんでした。

それから、まもなくして、面識のあった渡辺さんに連絡を入れました。創元社さんなら、知の発見シリーズなど、歴史や美術関連にも力を入れていらっしゃるし、渡辺さんは心理学関連を多く手がけてらっしゃると聴いていたので、もしかすると気に入っていただけるかもしれない、という期待もあったのです。それで、簡単な本の紹介(版元のURLなども添えて)やスキャナ画像をお送りし、ぜひ出版していただきたい旨をお伝えしました。折りよく、東京にいらっしゃる御用があるとのことで、翌週にお目にかかることになります。

Wooden Booksを初めて手に取られたとき、渡辺さんは、とても良さそうね、とおっしゃってくださいました(このとき、『シンメトリー』『錬金術』『ドラゴンの物語』の三冊をご覧になっていただきました)。ちょうど、別の書籍でドラゴンについて扱っていたそうで、ドラゴンの物語について、話がはずみます。Wooden Booksの装丁、精密な銅版画、タイトルのホログラムシート(型抜きするため、一冊につき、シートが一枚必要で、コストが非常にかかるとのことでした。日本語版ではどうなるのだろう、と思っていましたが、ご存知のとおり、そのまま再現してくださいました)についてお話しながら、「きれいですよね。素敵ですよね」と何度も言い合いました。

そのうち、「シリーズの他の本はどんな感じなのか」、「この本を置くのはスピリチュアルの棚だろう」、「銅版画の版権はどうなっているのか」、「実際に、タイトルをホログラムシートにできるだろうか」となり、そして、時間が許すのなら、エージェンシーを訪ねてみようということになりました。アポイントを取っていただき、駆け足で南青山のイングリッシュ・エージェンシーへ向かいます。

そのあいだ、満月の効用やバリ島のお祭のこと、(大ファンだったのにお亡くなりになって残念だという話から、渡辺さんが担当されていた)河野隼雄さんのこと、押田成人神父のお話など、柔らかい感触の、スピリチュアルなものも感じさせるお話が続きます。とても共感できる内容だったので、エージェンシーに到着するのが惜しい、と思うほどでした。

イングリッシュ・エージェンシーには、洋書の森には出していないWooden Booksシリーズが十数冊ありました。(実際には、40数冊刊行されているシリーズです)渡辺さんと担当の方は図版の版権について、データの扱いについてなど、具体的なお話をされています。エージェンシーまでうかがうことができたので、この段階では考えていなかったほどの、多くの情報が得られました。

それから一週間ほどたって、渡辺さんよりご連絡が入りました。Wooden Booksの話を具体的に進めてみたいという、嬉しいご報告です。このときに、訳に携わりたいと考えている翻訳者がほかにも数名いるということをお伝えして、了承していただきました。

作業の段取り、訳の吟味、最終稿作成など、翻訳作業に関するやりとりは、フリーの編集者をされている小野雅弘さんと翻訳者のあいだで個人的におこなわれました。東京近辺を拠点として活動されている方で、インカ・マヤ文明などについての専門家です。展覧会もずいぶん手がけていらっしゃるそうです。細かいところまで、丁寧に見てくださるお仕事ぶりに、とても安心感を覚えました。また、仕事への姿勢など、多くのことを学ばせていただいたように思います。〈アルケミスト双書〉というシリーズ名も小野さんがつけられたそうです。ずいぶん悩まれて決定されたとお聴きしています。

本が出来上がったとき、渡辺さんが「最初に本を見せていただいたときの『わぁー』っという感動を呼ぶ趣が、日本語版でもうまく出ていて、いい仕上がりになったと喜んでいます」とおっしゃってくださいました。おそらく、私にはうかがいしれないようなご苦労や工夫もあったのだと思います。また、多くの方たちが丁寧に仕事をしてくださったのでしょう。翻訳者として、その一部に加われたことはとても嬉しいことでした。翻訳はひとりでおこなう作業ですが、やはり多くの方たちと力を合わせて、ひとつの仕事をやり終えたのだ、という感慨があります。このような実感をもてたことは、自分にとっても大きな糧となりました。


錬金術
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ルーン文字
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