入門翻訳勝ち抜き道場

WEBマガジン 出版翻訳

山本 耕
編集長 山本 耕 ごあいさつ

本WEBマガジンの目的は、新しい時代の翻訳者を養成することにあります。本紙「刊行の辞」で創刊編集長の藤岡啓介氏が「出版翻訳」という言葉を 1995年のインターネット元年と結びつけたように、「出版翻訳」とニューメディアであるインターネットをそれぞれ別の存在であると考えることはできません。

1995年以降、出版物が急増していますが、インターネットの出現によって生まれた膨大な情報の波が出版の世界にも流れ込んできたものといえます。また、インターネットの出現によって、だれもが情報の発信者になれる時代が到来しました。日本人がグローバルに活躍するようになり、語学力の向上もあいまって、翻訳はこれまの「狭き堂宇の中」の専門家に頼るのではなく、翻訳出版を生涯の目的とする人々がその責を担うようになっています。本誌は、こうした新しい時代の翻訳者の養成、レベルの維持・向上、翻訳者の地位確保を目指していきます。

新しい技術への対応も必要です。2000年頃からインターネットの高速化が進み、インタラクティブなツールを含め、様々な新メディアが登場しています。またモバイル化が加速し、今年2010年には、電子書籍が急速に、多様に展開するでしょう。新たな時代の翻訳者はこのような社会の変化にも対応していかなければなりません。

また本誌に集う皆様には、ぜひこの新しい時代に「自分が出版翻訳を為す」ことの意義を、あえて問い直してほしいと思います。この時代、翻訳をするだけであるなら版権のない古典を翻訳して個人のHPで公開すればいいはずですが、それは「出版(publication)」とはいえません。ブログなどWEB上に書き込まれる個人の意見は、責任と根拠に基づく「公的(public)な意見」というよりも、どちらかといえば「私的(private)な感想」といえます。「出版(publication)」と呼ぶからには公的な根拠と責任を背負う必要があると思います。

ネット社会は情報の発信者と受信者がそれぞれにもつ境界を曖昧にしましたが、それだけでなく公的(public)と私的(private)という境界も曖昧にしています。こうした時代に「出版(publication)を為す」ということがどういう意味を持つか、改めて問い直し、

ネット時代の読者とは誰か、
読者に何を伝えるのか、
どう伝えるのか、
なぜ伝えなければならないのか、

こうしたことを執筆者、読者と共に考えていければ幸いです。

最後に、ここに集う皆さんは「言葉の力」を信じている方たちです。言葉はひとに情報や知識を与えるだけでなく、人格・人生を変える力を持っていっています。ただ美しい言葉を並べるだけではなく、読者を巻きこむ活力ある言葉を紡ぎ出していきましょう。そのような言葉を、みなさんの翻訳の力で、世界のひとから日本のひとに、日本のひとから世界のひとに伝えること、この場所が新たな時代の新たな知の泉のひとつとなれば幸いです。

2010年4月5日号
(第4巻151号)