
寿美さん、読んでますよ (2)
——Did you know that? 連載第8回の「乳癌治癒募金運動に参加して」を読んだ読者から(それに筆者の田中寿美さんからも)感想が寄せられました。女性の健康問題、「出版翻訳」に直接かかわりがないのでは、と思われる方もおられると思いますが、『出版翻訳』でまず問われるのは、翻訳者の人格です。翻訳者が健康で、健全な判断力をもって生活する「人格」が前提になっています。健康は翻訳以前の問題です。世の中が狂っているとき、「健全」を貫くのは容易ではありません。皆さんの声がこうして寄せられたのは、本誌としては何よりも嬉しいことです。どんどん発言してください。言葉がない翻訳者なんてありえませんね。{訂正とお詫び:10月29日に掲載した記事で、柴谷さんの投稿を分割して前半を村松さんのお名前で掲載してしまいました。改めて村松静枝さんの感想を掲げます。柴谷さん、村松さん、失礼しました。そして読者の皆さん、どうぞ本欄を再読してください。
寿美さんのエッセーに、直美さんの勇気に力づけられました。
たいへんデリケートなテーマですが、乳癌は私たち女性にとって今や非常に身近な病気となりました。昨年のことですが、同い年の友人から、彼女のやはり同年代の知り合いが初期の乳癌にかかり、その友人自身もショックを受けたとの話をききました。また、以前の勤務先でお世話になった方の娘さんが乳癌にかかり、まだ小さなお子さんとご主人を遺して亡くなったという知らせを聞き、職場の仲間とともに、ことばにつまってしまったことを思い出しました。こうした悲しい知らせをきく一方で、エッセイに登場する直美さんのように、病いを克服し、乳癌撲滅運動に取り組む女性の存在を知ると、勇気づけられる思いです。
田中さんのエッセイからは、レースの様子がルポルタージュのように淡々と描かれている一方、活動に参加する人々の強い思いと願いがひしひしと伝わってきました。仕事で海外テレビ局の特派員のコラムを翻訳することがあり、執筆者の思いや訴えたいことを可能な限り深く読み取り、書き手の「熱」を伝えようと心がけているつもりですが、ときとして、どうしても全てをつかみきれず、文章のうわべだけをすくったような訳文を不本意ながら納品することがままある私にとっては、「エッセイとはこう書くものだ」という素晴らしいお手本になりました。(村松静枝)
日本の状況は、死亡者数が増加の一途をたどっているというのに
ポートランドの田中寿美さんの記事を拝見し、4年前の秋の日、大阪市内のある会場でピンクリボンに関する講演会があり、マンモグラフィーによる検査により早期発見・早期治療の大切さを訴えていたのを思い出しました。
乳癌とは違いますが、以前、婦人科系の疾患で入院・手術を経験した者としては、その大切さは痛いほど身にしみているはずなのに……。
祖父・祖母・伯父を始め、昨年他界した従姉も癌であった点を振り返れば、定期的に検診をしておいた方が良いことは、見にしみて分かっているはず……。
それにもかかわらず……なんと遠い存在としか考えていないことか……。
生来の呑気ゆえ、婦人科にかかることを億劫がっていたその心が、取り返しの付かない状態に至ることは経験している筈ではあるのに……。
会社員のように年に一度の検診のない立場でありながら、また、体調管理も自己責任であることを心に留めていたはずなのに……。自分だけは大丈夫」とタカをくくっていて、自分のこととして真摯に受け止めていませんでした。寿美さん、有難うございました!
早速、寿美さんがご紹介下さった英文ホームページに加え、「日本乳癌 ピンクリボン運動」を推進している「NPO法人J.POSH(http://www.j-posh.com/)」の日本語のホームページを訪れてみました。乳癌による死亡者数が減少傾向にある米国に比べ、日本の状況といえば、死亡者数が増加の一途をたどっている、とあります。「生存率」というポジティブな言葉のアメリカに比べ、「死亡率」というネガティブな言葉を使っている日本。生き続けたいから、マンモグラフィーによる検診を受診するアメリカ。癌と分かったら大変だから検診を受けないのでしょうか……。このような言葉の使い方や表現方法にも、双方の社会における文化の違いを垣間見たように思えました。
日本の医療現場では、急患の多い小児科や産婦人科を専攻する医師が減り、急患の少ない眼科が一番人気、口腔外科が二番人気である、と聞いています。都市部と地方の地域格差に加え、専門医療の間にも格差が生まれているようで、日本社会における高齢者医療を含めた医療問題のこれからが気になる所です。
乳癌検診に関する啓発のリボンがピンクなら、赤いリボンはエイズ予防情報ネット(http://api-net.jfap.or.jp/htmls/frameset-redribbon.html)のもので、ブルーリボンは拉致被害者の生存と救出への願いに対する意思表示としてのもの。そして、黄色いリボンは、放浪者の帰還を願う家族の思いであったし、86年のフィリピンでは「ピープル・パワー」の動きの中で平和への切実な願いを象徴しましたが、そこにはマルコス政権への民衆の怒りが込められていましたし、94年、アイルランドの少女がイラク戦争で父親を亡くしたことをアメリカの大統領に訴えたという、戦争のない平和な世界への願いが込められていました。
それぞれのリボンの色にそれぞれの思いがあり、自分自身が知らない、気づいていない世界がそこにあるのですね。
いつの日か、この世から去りゆく前にどれほどの事に気づけるのだろうか……。癌も不安だが、何も気づかぬままに消え去る事も不安だが、全てに気づけるほどの才覚は私にはない。何よりも、マンモグラフィー検診を受診する大切さを改めて気づかせてくださった寿美さん、有難うございました。(柴谷ジェーン)
直美さんありがとう!
「乳癌治癒募金運動に参加して」を書くに当たっては、編集長のお勧めもいただきましたが、このエッセイに、乳癌罹患者ご本人の話を書かせていただいたブラット・直美さんの影響も大きくありました。
「Suzan Komen Race For the Cure」に参加した後、直美さんからメールがきて、
「寿美さん、日本では、アメリカに比べ、乳癌検診に対する意識が随分低いのではないかと思います。この「Race For the Cure」のことを『WEBマガジン出版翻訳』のエッセイに書いてくれませんか。その中で定期検診の大切さ伝えてほしいのです。私の乳癌のことを書いてください。実名で結構です。私が体験した事実、『命に関わるような進行の早い乳癌でも、検診のお蔭で助かった』ということを知り、一人でも多くの日本の女性が定期検診を受けようと思ってくだされば、とっても嬉しいのです」
と勧められたのです。
「私のエッセイでは、直美さんの思いはうまく伝えられないかもしれない。でも、エッセイを読んで、検診に行こうと思ってくれる人が数人でもいればいい」と思い「乳癌治癒募金運動に参加して」を書きました。
実は、私は8年ほど前、婦人科検診で「胸に米粒大のしこり」があるといわれました。それを聞いた途端、私の心臓は怒涛のごとく高鳴り、医者とその後何を話したか覚えていないほどです。病院からでた途端、「もし私が死んでしまったら、子供たちはどうなるのだろう」と、そのことばかりが頭の中をぐるぐる廻っていました。家に帰って幼かった子供たちを見た途端、涙が溢れてきたのを思い出します。5日後にマモグラムを受けるまで、このことは誰にも話さず暗い気持ちでいました。
その当時、私の乳癌に対する知識はほとんどなく、というより乳癌に対しての意識さえありませんでした。そのため「米粒大のしこり」が「死」に繋がるほどだったのです。幸いマモグラムでも超音波診断でも、確定的な癌細胞に当たるような結果はでませんでした。私は、X線技師が結果を伝えてくれたとき、その女性技師の手をとり泣きながら何度もお礼を言いました。
この時です。「定期検診を受けよう」と決心したのは。
直美さんの乳癌検診の経過や癌の報告には本当に驚きました。きっと二人のお嬢さんを持つ胸の内は、計り知れないほどのことだったと思います。しかし、直美さんの明るさ、優しさは、周りにいる私たちをどれほど安堵させてくれたかわかりません。そしてこのように、自分の辛い経験を皆さんのお役に立ててくださいと言ってくれる素晴らしさ。きっと直美さんの気持ちが、『WEBマガジン出版翻訳』の読者のどなたかに届いていると思います。
直美さん、あなたの優しさに感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう!(田中寿美)
★ 編集部から
10月1日はピンクリボン(乳がん撲滅啓発月間)スタートの日。それもあってか、弊社の女子化粧室には「マンモグラフィを受けましょう」というチラシが貼ってあります。私自身、年に1度の会社の健康診断で乳癌の健診を受けるようにしています。というのも、今年で3歳になった娘の成長を見るにつけ、長生きしなきゃ、の意識が高まったからなのですが、以前は「私は大丈夫」と根拠なく信じきっていました。でも、田中さんのリポートを読み、乳癌は年々増えていることを知り、なんと自分に知識がなかったかを知りました。翻訳業界は女性が多いです。既婚未婚問わず、女性特有の問題はつきものです。「WEBマガジン出版翻訳」が、人生で起こるさまざまな問題と向き合いつつ、キャリアを積むための一助となれば幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。(Y.H.)






















