《番外》ポートランドで振袖姿が……
先週末に無事に「着物のワークショップ」を終えたのですが、準備で着物の半襟付けなどをしていたら、針で指を深く刺してしまいました。不器用極まりない話です。刺したところに菌が入り、指がはれ上がり、先週は右腕全体が痛み動かせず、大変な思いをしました。右手中指先は、ちょっと何かに触れただけで飛び上がって悲鳴をあげるような状態でした。すぐに病院に行けばよかったのですが、何とも「針の穴ほどの傷」と侮っていたのです。
やっと元の状態に戻ってこうしてお便りできるようになりました。友人に、針の傷でも死に至ることがあると脅かされましたが、植木鉢を植え替えたときの土の菌が原因だと思います。幸いに、10年に一度受ければよいと言われている破傷風の注射を受けていましたので、助かりました。
さて、藤岡編集長に、私が関わった着物展示会の写真をご紹介のつもりで少しお送りしましたところ、コラムの中に載せていただくというご連絡をいただきました。そこで、「アメリカで着物?」と不思議がられるかもしれませんので、私と着物について少しご紹介させていただきたいと思います。
着物と私
私と着物の出会いは、20数年前にさかのぼる。私は、夫がポートランドの大学で教え始めた頃に出会った。大学の「日本伝統芸能」の授業で、夫は、講義ばかりでなく能の仕舞や狂言の小舞、実技も教え、学期末に発表会をすると言った。日本で買った着物や浴衣を日本らしく見せるために着せたいので、発表会当日に着付けを手伝ってほしいと私に頼んだ。
頼まれても、着物など成人式以来着たことも、ましてや人に着せたことなど全くない。浴衣だって怪しいものだった。日本女性だからできるだろうと言われてもどうしようもない。見様見真似で着せた着物は、何も知らないアメリカ人観客の目はごまかすことができても、日本人からみれば不具合だったことだろう。この経験は、自分で着物も着られない、人に着せられない、また自分の国の文化を知らないことを恥ずかしく思うきっかけとなった。
日本に戻り着付け教室に通い、少なくとも自分で着物を着られるようにはなった。結婚し渡米し、夫の学生たちの能狂言や歌舞伎の舞台で着物を着せるようになって二十年が過ぎた。何百人の学生たちに着物を着せただろう。アメリカ人はもとより、留学生である日本人、中国人、韓国人、ベトナム人、台湾人、ドイツ人、オーストラリア人等々。人種ばかりでなくその体型は様々で、175センチもある背の高い女性には、着物の袖は短く、おはしょりを取ることさえままならない。ちょっと太目の学生だと1本の腰紐では長さが足りず締められない。着物の前が合わさらない……。初めの数年間は、試行錯誤の連続だった。発表会では、帯や袴がずり落ちなかっただけでも幸いと思ったことが何度かあった。
日本に帰るたびに買い集めた古着の着物の数は、毎年増えていった。着物の色や模様は、価格、大きさ、新しさの次にくる。友人たちが、着なくなった着物を譲ってくれたものもある。最近は、どのような学生にも、又たくさんの学生たちにも短時間で着せることができるようになった。長い経験で、人は習うことができるとつくづくと思う。
日本伝統芸能の授業を取る学生たちは、素直で熱心な人が多い。日本のことを知りたい、学びたい、着物も着てみたい。狂言や歌舞伎の台詞を日本語や英語で覚え演じる。難しい舞を舞う。舞台のための小道具や衣装を工夫しながら作る。
私はいつも、この素晴らしい学生たちから、偏見を持たない心、違うことへの好奇心、人を思いやる優しさ、生きる情熱を教えてもらっている。
How to Wear a Work of Artでのスナップ
以下に掲げる写真は、ポートランド日本庭園が主催したアメリカ人の着物収集家の展示会の一環として、11月4日に「How to Wear a Work of Art」と題したワークショップをしたときのもの。

Mrs. Susan Castner は、ポートランド在住で日本人の母を持つ着物収集家である。今回、500枚所有の着物から20枚を展示させてくれた。着物は明治初期から昭和中期のものが多い。場所は、Portland Japanese Garden の中のPavilion、催し物、展示会会場。

パワーポイントで着物の文様についての話をした後、着付けのデモンストレーションをした。これは、最後に芸者の着物の着せ方を見せているところ。着物は、日本舞踊の先生から芸者踊り用の着物をお借りした。緋色のしごき帯がなく、布地を売る店で絹布を買い代用した。

着物のモデルが会場を出るところ。

左より: 浅井晴美さん、西ひろのりさん、
娘舞弥、土橋あかりさん

ポートランドの日本庭園は、アメリカでもトップクラスの、傾斜を利用した美しい庭園である。滝、八橋のかきつばた園、鯉の池、茶室などもあり、ゆっくりと庭を散策していると、まるで日本にいるような気分になる。
2005年夏の歌舞伎集中講座発表会の写真
学生たちは、4週間で踊りを習い、台詞と動きを覚え、小道具を作る。小劇場を借り、一般公開した。

一幕目で日本舞踊を踊る学生たち。古着の着物や帯でも喜んで着てくれる。
どの女性も美しかった。男性の着物は浴衣である。後ろは歌舞伎の浅葱(あさぎ)幕。

二幕目、学生歌舞伎「ういろう売り」。主役のMatthew Shores さんは、早口言葉を日本語と英語で熱演した。今年からハワイ大学博士課程で落語を研究している。背景幕は、浮世絵を勉強する学生たちが描いた。鬘は女子学生たちが創意工夫して作った。隈取り化粧の仕方も習い、各顔、本を見て研究した。花魁衣装は、私にとってチャレンジの着付けだった。






















