入門翻訳勝ち抜き道場
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12月22日号
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田中寿美
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3. ジョージ・ブッシュ大統領とわが夫

ずいぶん前のことになるが、二〇〇〇年十一月の大統領選挙で、ジョージ・ブッシュはアル・ゴアと競い、フロリダ選挙での結論を最高裁判所まで持ちこんだ。共和党員が多い最高裁の裁判官投票で勝利し、大統領になった朝のことだ。夫は、結果がどのようになるか心配で前夜よく眠れなかったらしい。早朝、二階から下りてきた。そして、テレビにジョージ・ブッシュが大統領になったことが放映されているのを見るやいなや、

「我慢ならない!四年間もあの猿顔を見なければならないなんて耐えられない!」
と言って二階にあがり寝こんでしまった。

その朝、ボストンに住む義父の再婚者であるフィリスから電話がかかってきた。
「なんであの馬鹿なブッシュが大統領になるのよ。これでアメリカもおしまいよ。アメリカ国民の愚かさにはあきれるわ。それに、今日、私の従妹のバーバラが、共和党員で熱心なブッシュ支持者だってはっきりわかったの。もう付きあいをやめるつもりよ」

Not Bush Again!?
二〇〇四年秋、ジョージ W. ブッシュが大統領選挙で再選された後、ブッシュ政権反対の意味で売られたTシャツの一つ。このようなシャツは、民主党支持者の間で、特に家族や兄弟姉妹のクリスマスプレゼントとして人気があった。我家でも、義母から夫へのプレゼントとして贈られた。しかし、家の中では着るが、外に着ていく勇気はないようだ。

私は、この二人の過激な発言に圧倒されていた。寝込むほどのことだろうか、従妹と縁を切るほどのことだろうか。もちろん、夫もフィリスも熱心な民主党支持者であることはわかっていたが、これ程ジョージ・ブッシュや共和党を嫌っているとは想像を超えることであった。それ以前の八年間、アメリカは、ビル・クリントン率いる民主党政権下であった。自分の支持政党によって国政が動かされていたから、それほど異論はなかったわけだ。しかし、政治方針のまったく異なる政党が政権を握ると別であるらしい。

アメリカにはいくつかの政党があるが、二大政党は民主党と共和党である。国民の八十パーセントくらいは、そのどちらかの政党を熱心に、生涯ほとんど変わらず支持する。支持率は半々である。また、どの政党を支持するかは、家族ごとにはっきりわかれている。夫が民主党で妻が共和党、あるいはその反対という、支持政党が違う夫婦はほとんどいない。例外として有名なのは、カリフォルニア州知事に選ばれたアーノルド・シュワルツェネッガー夫妻だ。夫は共和党だが、妻のマリア・シュライバーは民主党。彼女は、あのカソリック系民主党、ジョン・F・ケネディー大統領の姪である。ケネディー家の血を引く彼女が共和党員になるわけはなく、オーストリアからの移民であるシュワルツェネッガーが妥協点を見つけ、民主党寄りのリベラルな共和党であると噂されている。

このような夫婦はめったにいない。家族や親戚、友人間でも、同じ政党支持者同士のつきあいが多くなる。集まったとき、政治の話題になれば話がはずむし、政治家批判やジョークに花が咲く。しかし、お互いが違う政党を支持しているとはっきりとわかっている場合は、政治の話は避ける。相手のことをよく知らない場合は、自分の政党については話さない。感情を苛立たせずつきあうためである。

共和党とは、簡単にいうと、富裕層優先主義政党のようである。大企業や金持ちの税率を低くし、その余ったお金で起業させることにより、国民に職を与えるような社会構造をつくる。家庭では、夫が外で働き、妻が家庭を守り子どもを育てる環境を奨励する。一般的には、プロテスタント、白人の優秀なビジネス関係者、又田舎に住み、白人社会のみで生活し、他の民族、人種社会との交わりが少なく、外国を知らない者の支持者が多い。

一方、民主党は、高所得者の税金を高い比率にし、低所得者の税金を低くする。これによって国民の収入の平等化を目指す。こちらは、都市に住むリベラル(自由主義者)、教育関係などのインテリ層、カソリック系白人、ユダヤ人、黒人、ゲイなどの支持者が多い。因みに、政府のプログラムによって税金を低所得者に援助として廻す率は、共和党に比べて民主党の方が高い。

民主党でも共和党でもない残りの二十パーセントは、インディペンデント(無党派)、スモール・パーティ(小党派、グリーン・パーティが有名)また、一応支持政党を決めてはいるが、そのときの政党や政治家の政策や状況で投票を決める人たちである。

金持ちでも、大企業の社主でもない、リベラルな大学教授の我が夫は、民主党員である。私は、永住権(Green Card)は持っているが市民権(Citizenship)がないため、選挙権もない。これは、私が日本国民であることをやめて、アメリカ人にならなければ、国選でも地方選挙でも、その権利は一生涯ないということである、残念ながら……。選挙権を取るか日本国民であり続けるか、外国に住む者の悩みはつきない。そんな私も、毎日夫の意見を聞き、共にジョージ・ブッシュ政権を批判し続けている訳だから、もうすっかり民主党支持者だろう。

ジョージ・ブッシュは、一七世紀はじめに、先祖がイギリスから移民してきた家系を持つ。後に大統領になる親の偉力でアイヴィ・リーグのイエール大学に入学し、落ちこぼれであったにもかかわらず、卒業の肩書きを持っているという話である。

アメリカの大学、特に私立は、アイヴィ・リーグ大学を含め、ある程度の学力に加え、家族の権力や財力がものをいうことがある。志望学生の家族が大学にどれほど寄付できるかは、入学に関しての大きな要因となりうる。これは日本の裏口入学とは異なり、入学前に数十万円、数百万円と支払うのではない。過去にさかのぼって、家族がその大学にどれほど寄付をしてきたか、または、入学後、卒業後も寄付をし続ける可能性があるかどうかということである。家族代々大金持ちである、あるいは、にわか成金でも、莫大な金を儲けた人物や家族の場合、億単位の額を寄付することもある。

ここポートランドでは、スポーツ用品会社ナイキ「NIKE」の創始者であるフィル・ナイトが、母校であるオレゴン州立大学に寄付する金額は生半可な額ではない。代々資産家であるブッシュ家から、イエール大学にどれほどの寄付がなされているかは知らないが、父子で12年間アメリカ大統領を務めることになるブッシュ家が、イエール大学に与えている影響は大きいのではないだろうか。また、イエール大学は、アメリカのアイヴィ・リーグ大学の中で、ユダヤ人や黒人学生の入学を最も遅く許可した大学のひとつである。

アメリカ三大テレビ局のNBC、ABC、CBS、地方テレビ局、大手メディアの社主たちは、殆んど共和党員であると言われている。計りしれないほどの大金持ちである彼らが、共和党を指示しないはずはない。報道という中立であるはずのメディアが、片方の政党を明らかに支持し続けているのは、納得がいかないが、
「アメリカは、自由の国であるが公平平等の国ではない。そして、残念ながら、メディアにも政党を選ぶ自由がある(America is a free country but not a fair country.)」と夫は言う。

大統領選挙が行われる年になると、大統領候補者が、自分の政見主張ばかりでなく、対抗候補者をけなす一分間ほどの放送がテレビで何度も流れる。時間帯と回数は、その党が持つ資金力に左右される。政見放送の間には、企業コマーシャルが果てしないほど流れる。これは、テレビ局の膨大な収入になる。選挙資金収集力の高い共和党候補者の政見放送数は、選挙が終盤に近づくにつれ多くなる。FOXテレビ局は、共和党支持が明確であり、資金のいかんに関わらず、共和党候補者を強烈に印象づけていく作戦をとることで有名である。

新聞社も同じ傾向にある。たとえば、二〇〇四年秋に、大統領再選を控えたブッシュ大統領は、イラクにおける戦略で多くの過ちを指摘され、またアメリカ人兵士の死者数が、日々増えていく中で窮地にたたされた。もちろん新聞は、表面的には中立を保っているわけであるから、イラクでの爆撃の様子などは一面に掲載される。しかし、悲惨な戦場写真は控えられ、大統領やその側近を直接的に非難する記事は一面には出てこない。民主党支持者が熱心に読むような記事は、二面以降に載る。新聞社では、記者は民主党、その記者たちに指示を与える編集者たち及び社主は共和党が多いと言われている。

二〇〇六年秋、中間選挙では民主党が勝った。夫もフィリスも、親戚中大喜びであった。民主党ではすでに、ヒラリー・クリントン (Hillary Clinton) とバラック・オバマ (Barack Obama)、ジョン・エドワーズ (John Edwards) が二〇〇八年大統領候補として意気込んでいる。初の女性、あるいは黒人大統領が生まれるか。そして、共和党では、ルーディ・ジュリアーニ (Rudy Giuliani)、ジョン・マッケイン (John McCain)、ミット・ロムニー (Mitt Romney) の三候補者が名乗りを上げている。大統領家族がアメリカの模範であることを印象づけている共和党では、選挙以前に、最有力候補であるジュリアーニの離婚再婚をめぐる倫理問題が話題になっている。

アメリカの大統領選挙はおもしろい。

 私は、それではいったい、どんな人がアメリカの大統領になるのかと夫に聞いた。
「アメリカの大統領には……、大統領選挙キャンペーンのための莫大な資金を調達できる能力がある人。そして、有権者の四十パーセントを占める民主党支持者、あるいは四十パーセントの共和党支持者、その中で自分の政党の票を確実に獲得することができ、残り二十パーセント、つまり無党派や大統領候補者の政策や人柄によって投票を決める有権者の心をつかみ、自分に投票させることのできる人である」

夫はこのように思っている。

ちなみに、大統領候補者が一日にキャンペーンのために使う費用は、約十万ドル、千二百万円くらいだそうだ*。二〇〇四年度の大統領選挙では、ジョージ・ブッシュ大統領は、二億七千万ドル、ジョン・ケリー候補者は、二億三千五百万ドル使った、とPresidential Campaign receipts に載っていた。国全体でかかる費用は、数billions だそうだ。数字が大きすぎてどれほどか見当もつかない。こんなお金、財政に苦しむ公立学校や医療費の補助に廻せないのだろうか……。

*An average full day of campaigning, including advance work, travel and hotel costs, renting halls and preparing stages can come to $100,000. (New York Times, 6/29/03, based on interviews with various campaign experts)


訂正:前号のポートランド市紹介記事の中で、ポートランド市の人口は、郊外の街を含め約210万人と書きましたが、ポートランド市のみの人口は約56万2千人(Wikipedia, 2006年度)です。ポートランド「Metropolitan Area」約213万7千人(Wikipedia, 2006年度)と訂正させていただきます。