The Oxford Book of Children’s Storiesシリーズより出題中
入門翻訳勝ち抜き道場

Did you know that?

田中寿美
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28.アメリカ返品事情

2001年9月から日本に一年間滞在したときのことである。私たちは、夫の仕事の関係から、新宿区にある2LDKのマンションに住んだ。アメリカから持ってきたデスクトップコンピューターを寝室の窓際に置きインターネットに繋げるようにしようとしたが、この部屋には電話プラグがなく困った。七十数平方メートルの部屋だから、電話がダイニングルームにあればすぐに取れるし、日本には子機という便利なものが発達しているので、電話プラグは一本で十分と考えられ設計されたのだろう。アメリカの家はそれなりに広いので、台所はもちろん、書斎、各寝室、家によっては風呂場や洗濯室にも電話線が引いてある。

さて、自分たちの家ではないので改造するわけにはいかない。ダイニングルームにある電話プラグを2股にして、そこから長いコードを寝室の窓際まで引くことにした。

翌日私は、高田馬場にある電気店に行って長い電話コードを買ってきた。ところが帰ってみると、夫も同じものを買ってきていた。二本あってもしかたがないので、次の日レシートを持って返しに行った。

店に入ってやさしそうな店員を探し、
「すみません、これ昨日買ったのですが、夫が同じものを買ってきていて必要なくなったので返したいのですが……」
「あ、そうですか。でもこの店では、買って帰られた品物の返品は全くできないことになっています」
「えーっ!だってこれ一度も開けていないし、買って帰ったまま持ってきたんですよ。ほらレシートだってあるし、このまま又お店で売れるじゃないですか。どうしてダメなんですか」
「店の決まりです」

取り付く島もない。
「そんなに高い品物でもないし他で使うかもしれないから、まあ諦めるか……」 とは思ったが、「どうしてなの」という疑問の気持ちがわいて釈然としない。

アメリカの返品に対する寛容さには、驚くものがある。売買契約した商品以外のものなら、殆どどんな品物でも返品できると言ってもよい。

返品と一口に言っても、選んで買って帰った品物をわざわざ店まで返しに行くのだから、時間も手間もかかるし定員との交渉を考えると、余程のことがなければ返品しないだろう。返品しようとするからには、する側にもいろいろな事情があるのも当然だ。しかし、アメリカの店では、購入者が品物を返しに行った場合、「どうして返したいのか」などといちいち詰問されることもなければ言い訳をする必要も殆どない。店や品物にもよるが、レシートと品物を手渡せば、例えば商品をケースから出してしまったとか、袋が破れてしまったとしても、あまりにひどい状態でない限りには店員が適当な処置をしてくれる。自分で選んで買っておきながら自分の間違いを言い訳したければ、
“I didn’t like it."

つまり、「その品物が好きじゃなかった」と言うのがいいらしい。

長年アメリカに住んでいると、私にも返品の回数は数え切れないほどある。そんな中でも記憶に残っているものがいくつかある。

近くのスーパーでりんごを買ったときのことだ。真ん中から割ってみると中が赤いのである。まだらに赤いのでどうして赤いのか考えてみるが、一向に理解できない。二個目を切ってみたが同じだった。食べる気もしない。友達の何人かに電話で、中が赤いりんごを食べたことがあるかと聞いてみるが誰もいなかった。これは、業者がりんごを美味しく見せるために赤い染色液に漬けた結果ではないかと判断し、買ったりんご全部を店に持っていった。

切ったりんごを見せながら、
「こんなに中が赤いりんごは見たことがない。食べる気がしない」

と渡したら、
「OK!」

と言ってお金を返してくれた。

随分前のことだが、肉を買った時のことは今でもはっきり覚えている。ローストビーフ用肉の塊りを買って真ん中から切ったら、外側はピンク色なのに中が黒っぽいのである。どうみても外側に防腐剤を振りかけた古い肉であるとしか思えなかった。今回は、肉の切り口を見せ、返したいと言ったら、黙ってお金を返してくれた。このような食品に当たると、店や食品の安全を信用できなくなる。病気にならないほうがおかしい!

日本でも、傷んだ食品を返すことは、何処でもできるのではないだろうか。

先日は、オークションで日本のアンティーク布団箪笥をついつい買ってしまった。家に持ち帰って寝室に入れようとしたら、ドアから入らない。横にしても縦にしても斜めにもダメだった。玄関から中には入ったが、寝室のドアはそれより10センチほど狭かった……。バカだね。ちゃんと入るかどうか調べればよかったものを、値段が格安だったので夫と私は飛びつくように買ってしまった……。翌日、恥を忍んで返しに行った。

娘のハロウィーン衣装を作ろうと、布屋さんに行ったときのことである。娘とも相談しながらいろいろ迷い、結局青い伸縮性のある生地に決めた。しかし、娘はまだ迷っているらしく、あちこち見て回っていた。あまりに時間がかかるので、
「お母さんは、この生地ならきっと素敵な衣装ができると思う。だからもう買うわよ」

と言って、巻いてある布の筒を裁断してくれるところに持っていった。それから又ずいぶん待ったが娘が来ないので、切ってもらうことにした。
「3.5ヤード(約四メートル)ください」

そう言うと、店員は布を広げ測った後、鋏を入れジョリジョリと切った。そこへ娘が別の布の筒を抱えてきた。
「お母さん、私、やっぱりこっちの布のほうが好き。絶対あの衣装にはこっちのほうが似合うと思う。えーっ!もう切っちゃったの。私、こっちでなきゃいやだ!」
「いやだって言ったって、もう切ってもらったんだから仕方ないじゃないの。ぐずぐずして早く決めないからこんなことになるのよ。お母さんは、もう一つ買うのはいやだからね」

日本語で言い合っていた。もちろん、その店員が日本語をわかったとは思えないが、状況から判断したのだろう。店員は、
「こっちの布がいいの? 交換してもいいわよ。これを同じ長さでいいわね」

と言って、さっさと娘の持ってきた布を切ってくれた。お礼を言いながら、前に切ってもらった布地を渡すと、
「切っていても、これだけ長ければまた売れるから心配しなくていいのよ。まだお金も払っていないしね。こんなのは何でもないわよ」

話を続ける。
「この前なんかひどかったんだから。買って持ち帰って洗濯機で洗った後、返したいって来た人がいたのよ。洗った後の布の状態が気に入らないかららしいけど、もう洗ったものなんて売り物にならないじゃないの。洗ってから縫うつもりなら、試し布を買って調べるべきよね。結局、マネージャーに処置を任せたけど、考えられないような返品が時々あるのよ。そんなのに比べりゃなんでもないわよ」

ニコニコしながら布を渡してくれた。娘も私も大満足で家に帰った。洗った布の処置がその後どうなったか聞いておけばよかった。

しかし、アメリカでも、あまりにも理不尽な場合は返品を認めないこともあるようだ。

衣料品販売競争は、高級衣料は別として、アメリカでも激しい。15~30パーセント引きは普通である。店によっては、小売価格ではなく、割引価格からの50~75パーセント引きもある。もう原価がいくらか分からない。このようなセールでは、少なくても2,3枚、多い人は10枚、20枚を一度に買っていく。家に帰ってゆっくりと着てみて、気に入らなければその中の数点を返しにいく。衣料品大量購買方法と返品は、特に女性の間に根付いているように思う。これを考えると、洋服の返品が日常茶飯事であることは頷ける。しかし、服を買って1,2度着た後、もういらないからと外した正札とレシートを返しにくる悪どい人もいるそうだ※1。そんなのは、店員にも見分けがつくらしい。私が見た一番ひどい洋服返品の光景は、デパートで、30歳代の白人女性が、5枚ほどの服を返したいと店員に交渉している時だった。正札も外されていたが、何よりレシートを失くしてしまったと言っている。店員は、レシートがなければ返品はできないと断るが、女性は一歩も引かない。時々、他の安売りの店で買ったものをデパートの正札と取り替えて持ってくる人もいると聞いた。彼女は、この店で買ったのに間違いない。正札にこの店のバーコードがあるから確かめるよう説得している。外れた正札は、何処からでも持ってこられるので確証にはならない。私は目の前で起きた余りに面白い光景に、洋服を見るふりをしながら二人の会話に神経を集中させ聞いていた。結局、断っても帰ろうとしないので、店員はこの女性をマネージャーの所に連れて行った。マネージャーも百戦錬磨の強者でなければ返品や苦情に応戦できない!

高校生が「プロム(prom)※2」や「ホームカミングダンス (Homecoming Dance )※3」の為にドレスを購入し、パーティで一晩着た後返すのはよくあると聞いたことがある。未成年者だからか、これに関しては暗黙の了解のようなところがあるか、あるいは高校生たちも返すつもりで汚さないように着ているのか……。このような返品は、私の理解を超えている。

私には、お気に入りのイギリス製Denby社の中皿が何枚かある。義父の再婚相手フィリスがクリスマスに数枚ずつ贈ってくれたもので、とても使い勝手がいい。Denby社の製品は値段も高い。この皿は一枚3,500円ぐらいするので、普段使いとしては高いほうである。その皿の一枚が、ある日、テーブルにポンと置いただけで真っ二つに割れてしまった。破片も何も出なかった。私は、ただテーブルに置いただけで割れたことと、切ったように割れたことにショックを受けていた。床に落として、「パリーン」と粉々になってしまったのなら諦めもする。どこかにぶっつけて欠けたのなら、自分の責任だと反省する。皿はここ3年程の間にもらったものだったので、この皿がいつ貰ったものかわからなかった。しかし、切ったように割れるというのは、製造の段階で割れたものをくっつけて窯で焼いたものではないかと勝手に疑った。

私の食器棚には、夫の祖母が長年愛用していた皿もある。フランス製のディナー皿セットだが、古いし模様も薄れてきているので普段に使っている。ディッシュウオッシャー(食洗機)に毎日入れても欠けたり割れたりしない。祖母は九十四歳で他界したので、その皿々は、少なくとも半世紀以上は祖母の手で、あるいはディッシュウオッシャーで洗われたことだろう。我が家に来てからもう二十年以上経つ。70年以上経っても元気な皿だ!陶器も磁器も大切に使えば長持ちするのだとつくづく思う。
「きっと不良品だったのよ……」 

そう思うと、私はどうしたらこの皿を交換してもらうか思案し始めていた。幸い、フィリスが近々ボストンから休暇で我が家に来ることになっていた。
「そうだ。フィリスが来たとき、買ったデパートに一緒について行ってもらおう。そして同じ皿に換えてもらおう!」

レシートも残っていなかった(洋服返品の女性と同じだ……)。

フィリスが来た日、私はDenbyの皿を見せ、私の考えを説明した。フィリスは、「きっと寿美の思っている通りよ。私だって、このように割れた皿は見たことがないわ。大丈夫。任せなさい!」と言ってにっこり笑った。皿一枚のことであったが、10人の味方を得たようだった。翌日、デパートに、割れた皿を持って行った。皿を店員に見せながら、
「この皿は、義母がこの店で私に買ってくれたものだけど、もう半年ぐらい(嘘も方便?)経つので、レシートもないんです。だけど、昨夜テーブルに置いただけでパリっと真っ二つに、ほーら、こんなふうに割れてしまったんです。不思議でしょ。ナイフで切ったみたいで、こんな割れ方はめったにないでしょう」 といろいろと言い繕った。店員は皿を受け取ると、「ふ~ん」と言う具合に見ていた。

そこへフィリスが一言。
「これは不良品です。交換してください!」

店員は、フィリスの淀みのない語気に一瞬ひるみ、これは太刀打ちできないと判断したのか、奥の事務室に皿を持っていった。その後、しばらくして書類を持ってきた。
「この書類に住所と電話番号を書き、署名してください」

手続きを済ませると、店員は言った。
「同じ商品なら、そこにあるどれでも好きなものを持っていってもいいですよ」

私は、こんなに簡単に換えてくれるとは思ってもいなかったので、ありがたく同じ色の皿を貰って帰った。

このように、私にも返品の経験は数え切れないほどある。しかし、数年使った後壊れた品物などは、返品や交換にはあまり行かないだろう。しかし、フィリスは違う。納得がいかないと戦う人である。

彼女は、3年間使ったトースターを新品に換えてもらったそうである。勿論、同じ商品が三年後も店にあったからであるが、品物を持って行って、
「このトースターは、少なくとも八年から十年は使えるはずの製品。どうして三年で壊れるのか納得いかない。きっと不良品だったに違いない。新しいのに交換してほしい」

と言ったところ、交換してくれたそうである。

アメリカってすごい。割れた皿でも壊れたトースターでも交換してくれる……。

しかし、アメリカが返品を簡単に受け入れるようになったのには、それなりの理由がある。低賃金に頼る発展途上国に進出した企業による外国製商品の氾濫。安いが粗悪品。返品や交換の要求が日常茶飯事になってしまったこと。また、不良品、粗悪品による事故など、訴訟問題の増加。客と店員との揉めごとの処理時間。全般を考慮すれば、客の返品を黙って受け入れたほうがいいという結果になったのではないだろうか。

衣料品売り場では、服にメーカーの商品札がついておらず、店の正札だけがつけられていることがある。あるいは、試着中に汚したか、返品されたのだろう少々難あり商品を値下げして売っていることもある。その服が自分にぴったりで気に入った上に値段が格安なら、
「この汚れ落ちそうだから、一度洗ってから着れば大丈夫」

とお買い得気分にさせられる。

電気店、文具店、園芸大工用品店などには、返品されたと思われる袋が破れているものや一度ケースが開けられたような商品が、テープを貼って売られていることがある。もちろん、食品ではありえない。欲しい商品がそれだけしかないとき、あるいは商品自体に問題がなく包装が悪いために値引きされているときは、それを買っていく人もいる。
「中身が新品ならいいんじゃないの」

とは大らかだ。最近は私でさえ、当日どうしても必要な品物でそれしか無いのであれば、
「ま、いいか。袋は破れていても中身は同じなんでしょ。わざわざ注文して数日待つより、買っていったほうがいいかな」

と思うようになった。家に帰って破ってしまう包装の、ちょっとした傷や汚れさえも気になって、きれいなものを探して買っていた昔には考えられなかったことだ。

だって、もしその品物が気に入らないなら、また返せばいいしね!

しかし、このような返品事情の中、アメリカにおける「いつでも返品できる」というシステムは、人々が気軽にものを買うという購買意欲を刺激し、アメリカ経済の活性化を支えていると言えるかもしれない。

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※1) このような行為を「abusing the system」と言う。自分の利益の為に、嘘をつくこと。この場合、店の好意で返品を受け入れてくれるのを利用して買う気のないものを一応買い、使った後返品するような行為。

※2)プロムナード(promenade)の略で、アメリカやカナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティのこと。最後の学年に開かれるものをシニア・プロム(Senior prom)と言い、高校生にとってとても重要なイベントとなっている。男子はタキシードかスーツ、女子はロングドレスを着ることが多い。この地域では、高校のジュニアーも参加できる。参加は自由である。

※3) 10、11月ごろ開かれる高校の新学年のダンスパーティ。服装は自由だが、女の子たちの中には肌の露なドレスを着ていく子もいる。娘が高校に入学した最初のホームカミングダンスのとき、娘は他の女の子たちと同じような格好をして行きたいと、背中が大きく開いた半分裸のような服を買ってきた。私は目を剥いて怒ったが、どうしても言うことを聞かない。「まったく!高校生がこんな服を着て男を挑発して……」と言うと、娘は、「お母さんが古い考えの日本人で、こんなパーティに行ったことがないから文句言うのよ!アメリカじゃ、こんなの普通よ!」と言い返した。パーティに連れて行ったら、娘の服はまだましな方だった。来年は、娘の「シニア・プロム」だ。どうなることやら……。

“Customer Service Desk”
“Your complete satisfaction is our goal”
Returns(返品)/ Lottery/Licenses/ Money Orders と書いてある。
この店は、生活全般の商品を扱い、食品の他、衣料、文具、おもちゃ、園芸などもある。
入り口の真横に返品コーナー(Returns)がある。左横オレンジのランプがついているところが返品受付である。この店は、日曜大工用品店と言うには、品揃えがすごい。この店で全てを揃え、自分で家を建てる人もいる。 建築関係、園芸なら何でも揃っている。 レシートを保存していれば、少々時間がたっても返品できる。

 

2009年6月22日号