26.離婚の犠牲者ダニエル
ダニエルは、夫側の親戚の男子である。もう二十歳を過ぎ、結婚している。この話は、義母からことあるごとに聞かされた、ダニエルの成長の過程である。
ダニエルの父ショーンは、1980年代初めにカリフォルニアで結婚し、三人の子供を授かった。三番目の子が生まれてから、夫婦仲がうまくいかなくなり、ダニエルが五歳のとき離婚した。協議の結果、妻トリッシュが、子供たちをショーンに押しつけ単身家を出て行くことになった。大学院に戻り修士過程で勉強中であったショーンは、収入も少なく三人の子供たちを抱え途方に暮れた。幸い、間もなくして、中学校(Middle School)教員であり、スペシャル・エデュケーション(Special Education)と呼ばれる、問題児教育の修士号を持つ女性ジェニーと恋に陥り、再婚した。彼女には、前夫との間に二人の息子がいたが、夫が引き取っていた。
自分の子供三人をつれて再婚したこと、まだ修士課程を終えていなかったことから、ショーンは、主夫として一家を切り盛りし、妻ジェニーの稼ぎで生活することになった。二人の間にも、続けて二人の女の子が生まれた。ショーンは、勉強どころではない。我が子三人に加え、乳飲み子と二歳の幼児の面倒を見なければならなかったのだから、その苦労は大変なものだっただろう。
ショーンの前妻トリッシュは、時々一番下の子メーガンを預かっていたが、自分の再婚が決まり、新しい夫との間に子供ができると、我が子三人とは疎遠になっていった。
子育てに忙しい父、生活を支える収入源であり、あまり家にいない継母、そして、四人の姉妹の中、ただ一人の男児であるダニエルは所在なかったに違いない。初めの数年は我慢をしていた。しかし、まだまだ親にも甘えたかっただろうダニエルの心は、次第に荒んでいく。落ち着きがなく、言葉遣いが乱れ反抗的になっていった。その刃は、継母であるジェニーに向けられた。ジェニーも生活に追われていた。乳飲み子を抱え、一家七人を自分の収入で養っていくわけであるから、並大抵のことではない。疲れて家に帰ると、手に負えないダニエルがいる。二人の間に火花が散り始めた。言葉で制御できないジェニーは、ダニエルにとうとう手を上げ始めた。叩かれるダニエルの気持ちは、ますます閉ざされ意固地になり、その反動で継母を殴りだした。学校にも行かなくなった。ジェニーは、問題児教育の専門家でありながら、自分の家庭で起きる問題、継子との関係をどのようにも好転させることはできなかった。ショーンも、父親であり夫でもありながら、二人の関係を取り持つことも修復することもできなかった。
そのうちに恐ろしいことがおきるのではないかと案じたショーンは、ダニエルを前妻に託すことにした。それから二年、ダニエルは、実母と暮らすことになる。ダニエルにとって、すでに再婚した母親、その新しい夫、その夫との間に生まれた父親違いの妹との暮らしは、決して楽しいものではなかったらしい。身の置き場も、心のよりどころもない中学生のダニエルは、荒れに荒れた。もう自分の手には終えないと思った母親は、また父親のところに返すことを申し出た。ダニエルの継母ジェニーは、これを受け入れなかった。思い余ったショーンは、東海岸に住む弟夫婦に相談した。
ショーンの弟ポールは、3人の子供を持つ女性スーと結婚していた。二人の間にも女の子が生まれたばかりであった。しかし、二人とも弁護士である彼らには、経済的にも精神的にも余裕があったのだろう。四人の子供たちを育てている上に、ダニエルを引き取り、家族として世話をすると言ってくれた。問題を起こしている義兄の子を、自分の子供が四人もいるのに、預かって育てることを引き受けるスーの心の広さには、本当に驚き、感動したものだった。
しかし、スー自身も複雑な経歴を持っている。スーの子供たちは、前夫と結婚している間に生んだが、その夫との間の子供ではない。前夫にとって、この結婚は再々婚であった。スーとの結婚で子供は欲しくなかったし、既に精管を結んでいた。夫との間に子供ができないとわかったスーは、私には考えも及ばない行動にでる。Sperm Bank(精子銀行)から精子を買い、体外受精によって子供を生んだのである。三人も……。精子を選ぶにあたっては、精子提供者を綿密に調べ、学者、医者、弁護士など、頭脳明晰な人物の精子を選んで受精にこぎつけたそうだ。子供たちは、全て父親の違う精子バンクからの妊娠出産であった。母親から、自分の父親なる人を書面だけで選ばれ、この世に生を受けた子供たち。父母の愛情によって生まれたのではないばかりか、自分の父親がどのような人物か、性格か、どのような人生を送っているのか、全く知る由もない。写真さえない……。
スーは、愛情深く、三人三様の個性を持つ子供たちを育てている。
このような話は、日本人にとって、まるで作り話のように思えるかもしれないが、私は、この家族と何度も会ったことがある。アメリカ社会では、子供が欲しい人の手段として、養子縁組、不妊治療など、隠すことでもないと言う開放的考えがあるように思う。スーの弁護士としての専門は、「Family & Divorce」だが、家族や離婚問題の弁護に日々奔走できるのは、スーが、自分自身の経験や複雑な生活を肯定的に、又積極的に生きていく不屈の精神があってのことだろう。
さて、十四才になっていたダニエルは、サンフランシスコの家庭からメリーランド州の家庭に、一個の荷物のように送られた。叔父とその妻、一才、十三才、十四歳、十六歳の新しい家庭。四人の従姉弟たちとの生活が始まった。ダニエルは、この血の繋がりのないティーンエイジャーの仲間入りをすることになる。
何も問題がなくても難しい年頃の子供たちが四人、うまくいくはずがない。ダニエルは、暫くは借りてきた猫のようにおとなしくしていたらしい。しかし次第に自分の気にそぐわないことに出合うと暴れだし、特に同じ年のジョンとの言い争いや喧嘩が耐えなくなってきた。あまりに複雑な家庭環境で育ったダニエルは、成長の過程で自分の心を制御する術を習わなかった。そのうちに、
「殺してやる。お前は、継母のジェニーと同じだ。ぶっ殺してやる!」
「ジェニーなんか地獄に落ちれ。いまに拳銃で頭をぶち抜いてやる、お前もだ!」
と、日に何度も叫ぶようになった。そして、とうとうジョンを殴って怪我をさせてしまった。もう我が家には置いておけないと判断したポールとスーは、ダニエルを父親の元に返した。ショーンは、その頃、ジェニーとも離婚し、出身地であるメリーランドに一人で戻り、職を探していたところであった。離婚の繰り返される家庭で育つ子供たち。幸い、ショーンの長女は大学の寮に入り、末の娘は、実母のところに引き取られていった。ジェニーとの娘たちは、彼女が親権を取り育てることになった。
ダニエルは、父親のところに戻ったものの、父親との関係も、学校に行くことも、友人をつくることも、生活そのものが良くなるはずがない。暴力の回数が増えるダニエルをどうすることもできなくなったショーンは、ダニエルを少年院に入れる決心をせざるを得なかった。
成長期にある青少年にとって、少年院行きというのは最悪の選択であるかのように思う。しかし、ダニエルは、自分のことを真剣に考え世話をし、教育してくれるこの少年院の大人たちの中で、初めて落ち着いた生活を送り始めた。
少年院で三年を過ごした。高校も卒業できた。もう大人に頼らずひとりで生活できる。ダニエルが希望した就職先は、ミリタリー、軍隊であった。少年院に入っていた経歴を持つ子供は、国の軍隊には入りにくいとのことであったが、更正したダニエルは、どうにか受け入れられた。
ダニエルは、軍隊で厳しい訓練を受けた後、韓国に一年駐留した。その後、アメリカに戻ったダニエルが希望した次の勤務先は、「イラク最前線」であった。イラクには、陸軍兵士として二年間滞在した。幸い負傷もせずに帰還できた。
ダニエルは言う。
「青春を振り返ったとき、自分にとって一番穏やかで充実していたのは、イラクでの戦場生活だった」
二年前、ダニエルに会った時、彼には女の子が生まれており、一家3人幸せそうに見えた。しかし、家庭を持ち、子供が生まれると言う人生の喜びの只中、彼は、またイラク最前線に志願したいと言っていた。アメリカでは、両親が離婚した家庭で育った子供の離婚率は高いと言われている。ダニエルも例外ではなかった。最近の話では、ダニエルは、わずか二年の結婚生活で離婚した後、又イラク行きを希望しているとのことだった。
誰にとっても地獄である戦場で一番の幸福感、充実を感じるように成長してしまったダニエルの家庭とは、どのような地獄であったのだろう……。
アメリカの離婚率は世界一であり、約50パーセントだと言われている。アメリカの離婚率を調べるのはなかなか複雑だ。離婚は、結婚期間の年数、年齢、民族、宗教、州などによって変わってくる。これに加え二度目、三度目の離婚もかなり多い。ダニエルの両親のような場合、結婚、離婚、再婚、離婚をどのように分類するのだろうか。
このダニエルの話は、決して特異な家庭で起きたことではなく、現代アメリカ社会の中で、そして私の周りに起きている離婚家庭で育った子供の悲劇の一例である。
繰り返される両親の結婚と離婚を目の当たりにして育つ子供は、「結婚」の意味、義務や責任を、家庭生活を通して学ぶことができにくい。家族の愛情の中で育まれ、習うべき人間として最も大切な、人を愛すること、信じること、人の優しさ、温かさを知らずに育つ子供たちの人生とは……。目に見えない心の傷は、どれ程深いものだろうか。
離婚の話に合う写真がなかったので、今回、この話に出てきた「Sperm Bank(精子銀行)」の情報を探してみました。「精子提供者になる為の条件」また、「精子を買うためには」という欄がありましたので、列記します。尚、これらの諸条件、法律などは、州や会社によって違います。
How to Qualify
We welcome men of all ethnicities and backgrounds as donors. You are eligible to start the donor screening process if you meet the following requirements:
- between the ages of 18 and 40
- be at least 5 feet 6 inches
- must live or work within 20 miles of our office
- must be a high school graduate
- must be able to legally work in the US
- can visit our office, at least once a week, between the hours of 8:00am and 5:00pm by appointment only Monday through Friday
- are able to make a one-year commitment to the program (two semesters for students)
- are able to provide medical information about both sides of your genetic family
- have no chronic health problems
In order to comply with tissue bank licensing regulations, we cannot accept donor applicants who have been exposed to or infected with HIV, hepatitis B, hepatitis C, HTLV, syphilis, genital herpes, or genital warts.
Legal Issues
California Family Code states that sperm donors are not considered the legal fathers of any children conceived from their sperm. You have no legal or financial responsibilities for any offspring born from your sperm, nor do you have any parental rights. Furthermore, when you are approved as a donor, you will sign a contract that explicitly protects your privacy.
How to Get Started
You must have Adobe Acrobat Reader to access our registration forms.
Our goal is to make it simple and convenient for you to order donor sperm, whether you’re planning to inseminate at home or in a medical professional’s office.
To learn more about registering and ordering sperm, read the step-by-step directions below:
- Choose a medical professional
- Establish an account
- Choose donors
- Purchase donor inventory
- Place your order
- Plan ahead
- Required Forms
【和訳】
How to Qualify (精子提供者になる為の条件)
弊社は、どの民族的背景や経歴を持つ男性でも、精子提供者として受け入れています。下記の必要条件に適合すれば、提供者としての選考過程に入ることができます:
- 年齢は18歳から40歳まで
- 身長、5フィート6インチ(約168センチメートル)以上
- 弊社から20マイル(約32キロメートル)以内に居住
- 高校卒業以上の学歴
- アメリカで合法的に働くことができる
- 月曜から金曜日の午前8時から午後5時までの間に、少なくとも週1回、予約を入れ来社できる
- このプログラムに対し、一年間責任を持つことができる(学生の場合二学期間)
- 実父母の家族の病歴情報を提供できる
- 慢性病がない
Tissue Bank(細胞組織バンク)の認可規定に従って、HIV、B型肝炎、C型肝炎、HTLV、梅毒、生殖器に疱疹や疣がある、これらの病状のある人と生活している、あるいは感染している場合、精子提供候補者として受け入れられません。
Legal Issues 法的問題
カリフォルニアの家族規約では、精子提供者は、自分の精子によってできた子供たちの法的父親とは考慮されません。あなたの精子によって生まれたどの子に対しても、法律上の、あるいは経済的責任はありませんが、父親としての権利もありません。 さらに 精子提供者として認可された場合、あなたの個人情報が完全に保護されるという契約に署名していただきます。
How to Get Started (精子を買うためには)
弊社の登録用紙を入手する為には、Adobe Acrobat Readerが必要です。弊社の目的は、受精療法を自宅で、あるいは病院でする場合、あなたにとって提供精子の注文をより簡単に、又便利にすることです。
登録と精子注文についてもっと知りたい場合、下記の指示を順に読んでください:
- 医療専門家を選ぶ
- 口座を開く
- 精子提供者を選ぶ
- 精子提供者目録を購入する
- 優先順位を決める
- 先の計画を立てる
- 必要用紙を提出する
日本でも、近い将来、このような情報が簡単に手に入るようになる日が来るのでしょうか。



























