入門翻訳勝ち抜き道場
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12月22日号
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Did you know that?

田中寿美
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13.ご機嫌いかが

「あーあ、また失敗だわ。このコピー機どうしていうことを聞いてくれないのかしら。表示通りにボタン押しているのに……」

私は、子供たちがアメリカの小学校に行き始めてから、子供たちの教室や学校内で長い間ボランティアをしてきた。プリントを整理したり、コピーをとったり、計算や単語の綴りができない子を見てあげたり、小テストの採点など、先生の手が届かないところを手伝うのが仕事だった。

ある日のことだった。娘のクラスでプリントの採点をしていたとき、大判の紙を渡されコピーを両面で百二十枚とってきてくれと頼まれた。学校のコピー機が、新型の立派なものに変わっていた。私はコピー室に行って戸惑った。いつもと勝手が違うのだ。事務員のマーガレットを呼んで、使い方を教わった。マーガレットは、

「大型両面コピーは、定番の用紙とやり方が違うのよ。これをこうやって、これをああして、ほらできたでしょう。あれ、表と裏がさかさまになっちゃった。かまわない、かまわない」

と言って、自分の仕事に戻ってしまった。

それから私のコピー機との格闘が始まった。

「これをこうやって、紙をおく。スキャンのためにスタートボタンを押す。そして裏返す。またスタートボタンを押せって書いてある。押す。あれ、又裏返してスタートボタンを押せって表示にでている。え、もう両面をスキャンしたのに……。どういう意味?」

ボタンを押してみると、紙が出てきた。一枚でよいはずなのに二枚出てきた。

「えっ、私がやりたいのとまったく違うじゃないの」

またやり直す。しかし何度やっても結果は同じ。

「マーガレットは、あんなに簡単にできたのに、私にどうしてできないの?」

何かが違うらしい。マーガレットにまた頼むのは億劫だな、と思って意気消沈していたところに、娘の前担任のウィリアムズ先生が通りかかった。

“Hi, Toshimi. How are you?”

いつものように明るく声を掛けてきた。私は、うまく行かないコピーにパニック状態だった。

“Bad!”
と言った。これは「ワルーイ!」といった感じのつもりだった。
“Bad?”

彼女は変な声を出して行ってしまった。「しまった」と思った。アメリカでは、“How are you?”と挨拶されたら、“I’m fine.”とか“I’m doing good.”など肯定的な挨拶で応えなければならないのに、あまりの苛立たしさに、つい本音が出てしまった。

この習慣は、「こんにちは」と挨拶されたら「こんにちは」というくらい軽いものだ。「ご機嫌いかが」と聞いていても、特別に相手が今日どんな調子かということを、真剣に聞いているのではない。そして、私の言った、「悪い」という答えは、日本語で「おはようございます」と挨拶されたとき、「こんばんは」と、言うくらいの違和感があるらしい。つまり、badという言葉は、状況、物の質、または道徳的に悪いときに使われ、もし“I'm fine.”の代わりに、気分がよくないからと言って“I’m bad.”といえば、「私は上手じゃない、とか悪者です」という意味になってしまう(このような言い方は、ほとんどしないが)。“I’m good.”と“I’m bad.”という単純な反対文であっても、使い方によって意味が違ってくる。外国語は話せるようになっても、文化や生活習慣からくる言葉が身につくには、使い慣れるための時間と言葉に対する意識が要るようだ。

中学生になり、初めて英語を習ったとき、

“Hello! How are you, Jim?”
“I’m fine, thank you. And you?”
“I’m fine, thank you”
と、いつも並べて書いてあった。
“I'm not fine.”
“I’m feeling bad.”
などとは、六年間習ったどの教科書にも参考書にも書いてなかったのを思い出す。今になってやっと、英語を習い始めた最初の言葉を理解した気がした。もちろん、家族間やとても親しい友人には、挨拶に加えてその日の気分の悪さを素直に表現することもある。しかし、病院の受付で“Hello! How are you?”と挨拶され、”Fine. Thank you.”などと答えているのを聞くと、私などとても違和感を覚える。「Fineじゃないから病院に来ているでしょ」と……。

さて、アメリカでまず驚くのは、気軽な挨拶の習慣である。道ですれ違った見知らぬ者どうしでも、目が合うと、“Hi!”と言って通り過ぎる。スーパーで買い物をしてレジに行くと、必ず、“Hello! How are you?”“Hi! How are you doing?”と聞かれる。こちらも必ず“Fine. Thanks.”とか、“Good! Yourself?”と軽く応える。何も言わなければ、不審者と間違われる。言いたくなければ、ただ、“Hi!”だけでもよい。この挨拶によって、多くの異なる民族が生活するこの国で、「私は、あなたにとって危険な人物ではありませんよ」と互いに自己防衛をしているらしい。

さて、大人の間で交わされるこのような形式的な挨拶も子供たちの間ではどうなっているのだろう。日本でも挨拶は、年齢や学齢で異なってくると思うが、アメリカも同じである。小学校生は朝、教師や親たちに会うと、
“Good morning, Mrs. Smith.”“Good morning, Mr. Hall.”

先生に対しても「おはようございます。ミスィズ・スミス」と苗字を必ずつけて丁寧に挨拶するが、Teacher Smithなど、○○先生と呼ぶ習慣はほとんどなくなってしまったようだ。代わりにMr.○○、Miss.(Ms.)○○やMrs.○○と呼ぶ。日本では考えられないことだが、先生をファストネーム、つまり名前で呼ぶ学校もある。ある地方の名門私立小学校の校長先生と話す機会があったときのことだ。

校長先生は自慢げに、
「私の学校では先生を皆名前で呼ぶようにしているんです。もちろん私のことも生徒たちに名前でジョンって呼ばせていますよ」

校長先生まで名前で呼ぶとは、私は目が点になるほど驚いた。名前で呼ぶということは、尊敬をなくすのではなく親しみをこめると理解したほうがよいらしい。

子供同士では、
“Hi Megan.”“Hi Paul.と、”Good Morning.“を言わずに名前を呼び合って挨拶を交わす。

中、高校生になると言葉は変わってくる。娘と息子に聞いた。
「中学生や高校生になると友達とはどんな挨拶をするの?“Good Morning”や“Hello”って言うの?」
「そんな挨拶だーれもしないよ」
「How are you? はどう?」
「それも言わない……」

中学や高校では、男女とも、
“Hi Michelle!”“Hey Daniel.”
と声をかけるか、あるいは直接、
“What’s up?”“What’s going on?”“’sup?”
と若者独特の挨拶言葉をつかっているようだ。(’sup?はWhat’s up? の略語で「サーップ」と言っている。「どうしてる?」という意味)

これらが、“Hello? How are you?”にとって代わったらしい。これに対する返事は、“Nothing much.”、あるいは“What’s up?”と同じ言葉を返す仲間もいるようだ。これらは、“I’m fine. Thank you.”と同じような感じの返事になる。
“What’s up?”と聞かれたと思って、“I have a big problem!”などと返事をされても困る。ただの挨拶なのだから……。話を続けたければ、“Nothing much.”と答えた後、
“But I got so mud at my mom this morning. She always complains to me just before I leave for school.”
と話を弾ませる。

大人の会話も同じである、親しい友人と会ったとき、挨拶の後、自分がその日の気分や体の具合について話をしたければ、
“I’m fine thank you. But I might have caught a cold last night. I have a runny nose now.”とか、
“I got in a big fight with my husband last night. I didn’t talk to him at all this morning.”
と付けくわえ、話を続ければよい。

娘を学校に迎えに行ったとき、友人のテリーにばったり会った。
“Hi,Terry. How are you doing?”
と声をかけると、
“I’m fine. Thanks. How about you, Toshimi?”
といつものように答えた。

挨拶をすませたあと、何気ない話を始めて、テリ―の顔をよく見ると、目が真っ赤で潤んでいる。辛そうな顔をしていたので、聞いてみた。
“Are you all right, Terry? Your eyes are so red. Is anything wrong?”
すると、テリ―の目から涙がツーと流れ落ちた。そして悲しそうな顔で言った。
“My father passed away last night. I’m going back to my home in Ohio with my children. It was so sudden. I was in a panic. Oh, I even had a hard time getting airplane tickets.”
予期しなかった返事に、胸がつまった。
“I’m so sorry to hear that… It must be so hard for you…”
そういうだけが精いっぱいだった私に、
“Thank you, Toshimi...”
と答え、娘エミリーと一緒に帰っていった。
“I’m fine.”か…。

このズボンの文字を見て「あれ?」と思われたことだろう。この会社名「サン・フレア」と同じである。昨年、このコラムにエッセイを載せていただくに当たり、偶然にも娘が所属するダンスチーム名「Sunflares」と同じで驚いた。この公立高校は、「Sunset High School」であるから、太陽に関係して付けられたのだろう。
大学受験のない高校生たちは、塾に行くこともないので、スポーツや部活に高校生活の楽しみを見つける。どの子も、授業とたくさんの宿題、長い練習時間と厳しい練習に耐えながらも、競技会に向けて一丸となってがんばる。彼女等は美しく輝いているばかりでなく、優しく、明るく、楽しい!親たちは、このチームにかかる費用の資金集めを手伝い、競技会では、子供たちの化粧、髪、衣装の手直し、食事の準備などをして舞台裏で働く。そして何よりも、強力な応援団として彼女たちをしっかりと支えている。