最終回発表は、3月22日です。

第10回 「わたしの新訳<競訳プロジェクト>」 応募の評価結果

厳正な審査の結果、第10回は

「ミッチョン」さん

が優秀賞に選ばれました。おめでとうございます!


【選考理由】
昨年5月に始まったこのプロジェクトもとうとう最終回を迎え、何とも寂しい気分です。これまで参加してくださった皆さん、たいへんお疲れ様でした!毎回皆さんの訳文を読むたびに新たな発見がありました。訳文はそれぞれ非常に個性豊かで、「翻訳は十人十色だなあ」と実感するとともに、自分には思いもよらなかった秀逸な表現にいくつも出会い、おおいに勉強になりました。
初回からすべての回に渡って参加してくださった皆勤賞が4名いらっしゃいます。「いっちゃんおんな」さん、「牛原 眞弓」さん、「キジトラ」さん、「ミッチョン」さん、1年近くずっと一緒に取り組んでくださり、ありがとうございました!アンケートで「ミッチョン」さんが書いてらっしゃるように、全訳したことはきっと自信につながるはずです。他の皆さんもぜひ、お時間を見つけて全編を訳してみてください。
今回は「ミッチョン」さんと「ねこのひげ」さんのどちらにするか、非常に迷いました。「ねこのひげ」さんは初めての投稿だそうですが、たいへんお上手で、もっと前から参加してくださっていればと悔やまれます。とはいえやはり「ミッチョン」さんはいつもながら読みやすく、安定感のあるできばえで、栄えある最後の優秀賞にふさわしいと判断させていただきました。

マイケルが最後に“John our esteemed host suggests its situation accurately.”と言ったのはなぜか、というご質問がありました。これは想像ですが、ご当主ジョンは、年に4度の施しをしているほどですから、おそらくマイケルの本当の身の上を知っていて、最初からマイケルの話がすべて絵空事だとわかっていて、一族のはみ出し者であるマイケルの憎めない嘘につきあってあげていたのではないかと思います。ですから“And the Castle is--”observed a grave, kind voice among the company.のvoiceの主もご当主ジョンだと思われ、つまり結果的に、マイケルとグルになって親類たちをだました形になったのではないかと思います。「キジトラ」さんの以下の訳文はこの辺りがたいへんうまく訳出されています。
「して、その城というのは――」重みのあるやさしい声が、面々のうちから口を継いだ。…我らの尊敬する御当主ジョンがお見越しのとおりであります。…」

また、“the Theatre”についてもご質問がありましたが、『図説 ディケンズのロンドン案内』に以下の記述がありますので、ご参考になればと思い、以下に引用しました。

「イギリスの首都の広大さと豊かさを考えると、ここにはその膨大な人口に見合うだけの豊かな娯楽があるはずだと言える。そして事実そうなのである ―― いうまでもなく劇場がその筆頭だ。
 ここで言う「劇場」とは、ウエストエンドにある三つの大きな施設のみを指す。コヴェント・ガーデンの〈シアター・ロイヤル〉、ドルリーレーンの〈シアター・ロイヤル〉、そしてもっとも人気を博していたのがヘイマーケットの〈シアター・ロイヤル〉である。ヘイマーケット劇場はオペラだけを上演していたが、それはコヴェントガーデンとドルリーレインが、一六六〇年にチャールズ二世からもらった特許状により、戯曲上演の独占権を有していたためだった。劇場そのものはロンドンの中心や郊外にも多数存在していたが ―― ほとんどが小規模で庶民的なものだった ――、上の三劇場以外は、文化的価値のある作品を上演することは、厳密にいえば禁じられていたのである。」

今回も、工夫された訳を挙げさせていただきました。

and when John and I talk over old times, and the one interest there…
「reikobravo」さん:ジョンとわたしは昔話に花を咲かせ、
 牛原 眞弓さん:ジョンとわたしは昔話に花を咲かせたり、

and the young voices of my descendants are delightful--O, how delightful!--to me to hear.
「いっちゃんおんな」さん:それを聞くと、こちらまで楽しくなりますよ!

So weak a man am I, that I cannot bear to hear it from any other source.
「ミッチョン」さん:私は女々しい男なので、よそでその曲を聞くと感極まってしまいます。
総合評価
【村松静枝 訳】

 私はさして金持ちではありません。そもそも、そう望んだこともないのです。貧しい縁者はゆっくりと両手をすり合わせながら、暖炉の炎を見つめていた。けれども十分満ち足りて、人並み以上の暮らしをしていますし、さほどの不満も心配ごともありません。私の城はさほど立派なものではありませんが、たいへん住み心地がよく、ぬくもりと活気にあふれ、そう、まさに理想の「わが家」といってもいいでしょう。
 いちばんうえの娘は、母親にたいそうよく似ていまして、ジョン・スパターの長男に嫁ぎました。そういうわけで、いまでは二つの家族は、仕事に加えてもうひとつの絆で強く結びついています。よく皆でそろって晩のひとときを過ごすのですが、それはもう楽しい時間です。そんなときジョンと私は昔の思い出や、たがいにずっと胸に抱いてきた目標について話し合うのです。
わが城におりますと、孤独というものを忘れてしまいます。なにしろ子どもや孫たちがいつもそばにいますから。自分の血を引く者たちの若さあふれる元気な声を聞けるということが、どれほど楽しく心踊ることでしょうか。最愛なる妻は、忠実な心で私に尽くしてくれます。その深い愛情にこれまでずっと助けられ、支えられ、あるいは励まされてきました。彼女の存在は、なにものにも代えがたいわが家の恵み、いや、まさにすべての恵みの源なのです。私たち一家はなかなかの音楽好きで、私が少しでも疲れたり落ち込んでいるような様子を見せると、クリスティアナはいつでもそっとピアノの前に座り、婚約したころによく歌ってくれた優しい曲を歌っては私を和ませてくれます。私はたいへん涙もろいたち性質で、他でその曲を聴くと、もう胸がいっぱいになります。前に一度、シアター・ロイヤルでその曲を聴いたことがありました。そのときはリトル・フランクがいっしょで、あの子が不思議そうにこういうのです。「マイケルおじさん、僕の手のうえにあつい涙を落としているのはいったいだあれ?」
 私の城と、そこでの私の暮らしぶりは、以上お話したとおりです。城にはリトル・フランクをしばしば招きますが、彼は孫たちのお気に入りで、よくいっしょに遊んでいます。一年のうちでも、クリスマスと新年を迎えるこの時期には、私はほとんど城を留守にしません。どうもこの時期というのは、家にいたほうがいいように思われるのです。この季節の習いとして、家にいて家族と過ごすべきであるような気がするのです。

「それで、その城というのは…」話をきいていた一同の中から、穏やかで落ち着いた声がたずねた。
「ええ、私の城があるのは」暖炉の炎を見つめたまま、貧しい縁者は首を振るとこういった。「空のうえなのです。親愛なるご当主ジョンは、そのありさまをよくご存知のことでしょう。私の城は空のうえにあるのです! さて私のお話はこれでおしまいです。どなたか、次のお話を始めてくれませんか」

【村松静枝 コメント】

1.but I have enough, and am above all moderate wants and anxieties.
勉強会で“God is above all things”という表現があるという話題になりました。マイケルはまさか自分が神同様だと思ってはいないでしょうが、あらゆる欲望を超越し、悟りの境地にあるのだという気持ちを表現しているのかもしれません。

2.They played it once, at the Theatre, when I was there with Little Frank; and the
child said wondering, "Cousin Michael, whose hot tears are these that have fallen on my hand!"
“the Theatre”が大文字になっているので、特定の劇場を指すのだろうと思って調べたところ、あるブログ(http://www.go-journey.com/musical/)からウエストエンド地区に劇場が集中していることがわかったため、勉強会では思いきって「ウエストエンドの劇場で」と訳してみましたが、情報源がブログだったため、やや確信がもてませんでした。しかし『図説 ディケンズのロンドン案内』に以下の記述があり、今度は大丈夫だと思い、訳文は「シアター・ロイヤル」としてみました。
以下は『図説 ディケンズのロンドン案内』からの引用です。
「イギリスの首都の広大さと豊かさを考えると、ここにはその膨大な人口に見合うだけの豊かな娯楽があるはずだと言える。そして事実そうなのである――いうまでもなく劇場がその筆頭だ。
 ここで言う「劇場」とは、ウエストエンドにある三つの大きな施設のみを指す。コヴェント・ガーデンの〈シアター・ロイヤル〉、ドルリーレーンの〈シアター・ロイヤル〉、そしてもっとも人気を博していたのがヘイマーケットの〈シアター・ロイヤル〉である。――中略――劇場そのものはロンドンの中心や郊外にも多数存在していたが――ほとんどが小規模で庶民的なものだった――、上の三劇場以外は、文化的価値のある作品を上演することは、厳密にいえば禁じられていたのである。…」

3.“And the castle is--” observed a grave, kind voice among the company.
勉強会で、この声の主は誰だろうという話になりました。単に城のありかをたずねるのなら“Where is the castle?”でもいいのに、わざわざこのように表現し、しかも“ a grave, kind voice”と丁寧に声の形容まで書かれているのだから、ご当主ジョンなのだろうという意見に落ち着きました。

4.勉強会の最終回で、マイケルの性格についてみんなで話したのですが、「うだつのあがらない、卑屈で暗い男だ」という意見もあれば、「実はそんなに自分の身の上を嘆いているわけではなく、わりと楽天的な人間なのではないか」という意見もありました。私は当初、前者の意見だったのですが、あらためて訳してみるとむしろ後者の印象が強くなってきました。自分の境遇をネタに作り話を披露して、立派な一族のみんなをまんまとだまして、内心「してやったり」と思っている、そんなお調子者なのかもしれません。

1年近くにわたった競訳プロジェクトも今回が最終回です。勉強会でも他の参加者の訳文に学ぶ点が数多くあったのですが、こうしてあらためて訳し直し、WEB上でさらに多くのみなさんの訳文を読み、素晴らしい訳文の数々にあらたな刺激を受けました。ほんとうにありがとうございました。


【上松さち訳】

 わたしはお金持ちではありません(と貧しい親戚は暖炉の火を見つめ、その手をゆっくりとすり合わせながら言った)。そもそもそうなりたいと思ったことがないのですから。それでもわたしはいまのままで十分に満たされていますし、人並みに物を欲しいと思ったり、心配したりすることもないのです。「城」は立派とは言えないまでも、居心地がよく、温かくて明るい雰囲気に包まれたまさに絵に描いたような「わが家」です。
 いちばん上の、母親によく似た娘が、ジョン・スパターのところの長男と一緒になりました。二つの家族はもう一つの絆で固く結ばれたというわけです。晩にはよく二家族で集まりますが、それはもう楽しく、ジョンとわたしは昔を思い出しては、二人のあいだにある目標のことを語り合うのです。

「城」にいると、孤独というものが何なのかを忘れてしまいます。まわりにはいつも子やら孫やらがおりますし、その子たちの元気いっぱいな声を聞いていると、わたしは楽しく、そう、心の底から楽しくなるのです。わが最愛の妻は、これまでわたしだけを一途に思い、助けとなり支えとなり、慰め、尽くしてきてくれました。それこそ、彼女はわが家にとってかけがえのない天の恵みであり、彼女なしにはいまの幸せなどありえません。わが家はなかなかの音楽一家でして、わたしが少しでも疲れていたり落ち込んでいたりするのを見ると、クリスティアーナは決まってピアノにそっと近寄り、婚約した頃によく歌ってくれた優しい曲を口ずさんでくれます。わたしは弱い男で、ほかのところではこの曲をまともに聴いていられません。かつてリトル・フランクを連れて劇場へ行ったとき、この曲がかかったことがありました。あの子が不思議そうに言いました。「マイケルおじさん、ぼくの手に誰かの温かい涙が落ちてきたよ!」と。

 これがわたしの「城」です。そして、その中に大切にしまってあるわたしの本当の生活です。わたしはリトル・フランクを城によく連れていきます。そうすると孫たちは大喜びをして一緒に遊びます。クリスマスと新年を迎えるちょうどこの時期、わたしが城を空けることはめったにありません。この季節になると、なぜか城にいなくてはいけないような気がしますし、そうするほうがよいのだと言われているような気がするからです。

「それで、その『城』は――」と一同のあいだからゆっくりとした優しい声がした。
「そう、わたしの『城』は」と貧しい親戚はやはり暖炉の火を見つめたまま首を横に振って言った。「空の上にあります。尊敬すべき御当主のジョンなら、それがどういうことかおわかりでしょう。わたしの城は空の上にあるのです! これで、わたしの話はお終いです。どなたか、次の話をお願いします」

【上松さちコメント】

1.So weak a man am I, that I cannot bear to hear it from any other source.:
 最初、マイケルはクリスティアーナ以外の人に二人の思い出の曲を歌ってほしくないという思いからこう言っているのかと考え、「わたしは情けない男でして、彼女じゃない誰かが、この曲を歌うのがつらいのです」と訳しましたが、ここは単純に、ほかの場所でこの曲を聴くと泣いてしまうということを言っているとのことでした。そこで、「わたしは弱い男で、ほかのところではこの曲をまともに聴いてられません」と直しました。

2.They played it once, at the Theatre, when I was there with Little Frank;:
 They played it onceが訳しにくく、「演奏された」「歌われた」などいろいろな解釈ができますが、勉強会では、「劇場でこの曲がかかった」とするのがよいのではないかということになりました。

3."Yes. My Castle," said the poor relation, shaking his head as he still looked at the fire, "is in the Air.:
 最後の落ちであるin the Airをどう訳すか悩みました。勉強会では「空中」「空」「空の上」とう訳が出ました。意味を考えると「空中楼閣」としたいところですがそれも難しく、結局わたしは「空の上」としましたが、これだという言葉が探せないでいます。

4.John our esteemed host suggests its situation accurately.:
 ここは、マイケルの本当の暮らしぶりを知っている当主のジョンなら、「城」がマイケルの空想の産物であることがわかるだろうということで言っているのだと思います。そこで、「尊敬すべき御当主のジョンなら、それがどういうことかおわかりでしょう。」としました。

 最後になりましたが、みなさま、これまで10回にわたる「競訳プロジェクト」に参加してくださり、ほんとうにありがとうございました。難しいディケンズの英訳を、勉強会の中だけにとどまらず、多くの方々と一緒にできたことを嬉しく思います。やはり、訳す人の数だけ訳文があり、それらを読むことで多くを学ばせていただきました。ありがとうございました。

優秀者

氏名訳文
ミッチョン 私は――貧しい親戚はゆっくり手をすり合わせると、暖炉の火を見つめながら言った――あまり裕福ではありません。何しろ、お金持ちになりたいと望まなかったものですから。とはいえお金は十分ありますし、人並みに暮らしていけますし、困っているわけではありません。わが城は豪邸といえるほどの代物ではありませんが、とても暮らしやすく、温かく明るい雰囲気に包まれていて、わが家そのものです。
 うちの長女といったら、それはもう母親に瓜二つなんですが、あの子はジョン・スパターの長男と結婚しました。今や、私たち両家は愛情という新たな絆で固く結ばれています。両家が一堂に会して一夜を過ごすことがよくあるのですが、そんな時は大変楽しく、ジョンと私は昔話に花を咲かせます。いつも同じ目標に向かってきた仲ですからね。
 わが城で私はまったく寂しい思いをしたことがありません。常に子どもたちや孫たちの誰かしらに囲まれていますし、あの子たちの元気な声を聞いていると心が浮き立ってきます。ああ、本当になんて浮き浮きするんでしょう! 私の最愛の妻は、実に献身的で、忠実で、愛情深く、いつも私を助け、支え、励ましてくれて、わが家にはかけがえのない宝物です。私がこんなにも恵まれているのはすべて妻のおかげに他なりません。私たちはちょっとした音楽一家で、私が疲れ気味だったり元気のない時はいつでも、クリスティアーナはそっとピアノのところまで行って、私たちが婚約したての頃にもよく口ずさんでいた優しい調べの曲を歌ってくれます。私は女々しい男なので、よそでその曲を聞くと感極ってしまいます。以前フランク坊やと劇場に行ったときにその曲が演奏されたことがあったのですが、その時あの子はいぶかし気にこう言いました。「マイケル、ぼくの手に温かい涙が落ちてきたんだけど、誰のだろう!」
 これがわが城です。私の人生が本当はどんなものであったか、これまでは城だけが知っていた一部始終をお話しました。私はフランク坊やをよく城に連れて帰ります。孫たちはあの子が来ると大喜びして、一緒に遊んでもらっています。毎年、クリスマスや新年を迎える、今くらいの季節になると、私は城から出ることはめったにありません。この季節にまつわるいろいろなものが私を城に引きとめ、この季節の教訓が、家にいたほうがいいと教えてくれているような気がするものですから。

「つまりその城は……」一同の中から重々しくも優しい声が聞こえてきた。
「ええ。わが城は」貧しい親戚は、暖炉の火を見つめたま首を振ると、こう言った。「空中にあります。わが敬愛するご当主のジョンがお察しのとおり、わが城は空中にあるのです! 私の話はこれで終わりです。話す順番を次の方に回してくださいませんか?」

応募者の訳

氏名訳文
reikobravo わたしは、――貧しい縁者はそう言うと、暖炉を見つめながらゆっくりと手を擦り合わせた―― あまり裕福でないのは、そうなりたいと思ったことがないからです。でも、十分満足していて、とりわけ貧苦や将来に対する不安からはそこそこ解放されています。わたしの城は立派ではありませんが、とても住み心地のいい所です。温かみがあって陽気で、まさにわが家というイメージそのものなのです。
母親にそっくりの長女は、ジョン・スパターの長男と結婚しました。ジョンとわたしの家族は愛情に満ちた関係で強く結ばれています。みなが一堂に会するというのは珍しいことではなく、それは楽しい夕べになります。ジョンとわたしは昔話に花を咲かせ、いつも二人に同じ目標があることに変わりはありません。
 城にいると、実に孤独というものを感じることがありません。城の周りにはいつも子どもや孫たちがいて、その快活な声でわたしを楽しませてくれます。ああ、なんと愉快なんでしょう。わたしの何よりも大切な妻は、いかなる時も真心を尽くし、常に愛情にあふれ、絶えず協力的で、支えでも慰めでもあり、わたしたち家族に授けられた何物にも代えがたい賜物です。そのすべての恵みが妻から湧き出ているのですから。わたしたち家族はどちらかと言うと音楽一家なのですが、クリスティアナはわたしの様子に少しでも疲れや気落ちの色を感じると、いつの間やらピアノに向かっていて優しいメロディーの曲を歌うのです。それは二人が初めて結婚を誓った時にも歌ってくれた曲です。なにぶんにもわたしは軟弱な男なので、兎にも角にもこの曲を聴いていられません。劇場でこの曲が演奏されたことがあるのですが、その時はリトル・フランクと一緒でした。フランクは不思議そうに言ったのです。「ねえ、ちょっと見て。誰かの熱い涙がぼくの手に落ちてきたよ!」
 以上がわたしの城についてであり、そして私の人生で実際に起こった数々の出来事、城に大切にしまっておいた思い出です。
わたしはたびたびリトル・フランクを城に連れてきます。孫たちはフランクを大歓迎し、一緒に遊んでいます。毎年、クリスマスから新年にかけてのこの時期になりますと、めったに城から出ることはありません。なぜかと申しますと、人々が集うこの時節がわたしを城にとどめているようで、城にいた方がいいのだと諭されているように思えるからです。
 「それからその城は――」 一族の中から、憂いと人情味を帯びた声がかかった。
 「そうです。わたしの城、」 貧しい縁者は暖炉の炎を見つめたまま首を横に振り、続けて言った。「それは中空にあります。親愛なるご当主であるジョンがその場所を正確に話してくださいます。とにかくわたしの城は中空にあるのです!私の話はこれで終わりです。次の方に順番を回していただけますでしょうか」
志村未帆 わたしは──貧しい親戚は暖炉の火を見つめ、ゆっくりと手をこすり合わせながら言いました──それほど裕福ではありません。金持ちになりたいと思ったことがないのです。でも、生活に困ることはないですし、なにしろ大それた望みなど抱きませんから。お城は豪華ではありませんが、たいへん住み心地が良いですし、温かさと活気にあふれています。絵に描いたような家庭です。
 うちの長女は、母親にとてもよく似ているのですが、ジョン・スパターの長男と結婚しました。両家はさまざまな絆で結ばれ、仲睦まじくやっています。みなが集って過ごす晩は──これまた頻繁にあるのですが──たいへん楽しいもので、ジョンとわたしは昔を思い返し、2人で追い求めてきた目標について語り合います。
 お城暮らしでは、孤独を感じるということがありません。子供や孫がいつも誰かしらいますし、自分の子孫の若い声は、なんとも心地よく──ええ、じつに心地よく──耳に響きます。最愛の妻、いつも変わらず誠実で、愛おしく、わたしを助け、支え、慰めてくれる妻は、わが家にさずけられた最大の祝福です。彼女はほかの全ての恵みの源です。うちはなかなかの音楽一家ですから、クリスティアナは、わたしがくたびれていたり沈んでいるのに気づくと、いつでもすぐにピアノに向かい、やさしい調べを歌ってくれます。2人が婚約したばかりのころに、よく歌ってくれた調べです。わたしは弱い男で、ほかの人がこの歌を歌うのをとても聴くことができません。以前、フランク坊やと観劇中にこの曲が演目に上がったのですが、あの子は不思議そうな顔をしてわたしにたずねました。「マイケルおじさん、ぼくの手に落ちてきたこのあつい涙は一体だれの涙?」
 お城がどんな場所で、わたしがそこでどんな生活を送っているかはお話した通りです。フランク坊やを連れて帰ることもよくあります。孫たちはフランクを大喜びで迎え、一緒に遊びます。1年のこの時期は──クリスマスと新年のころは──わたしは滅多にお城を離れません。季節のさまざまな行事に引き留められますし、季節の知恵は、自宅にいてかまわないと言っているような気がするのです。

「そしてそのお城は──」聴衆の1人が、重々しく、温かい声で言いました。
「そう、わたしのお城は」貧しい親戚は、相変わらず暖炉を見つめたまま首を振って言いました。「空に浮かんでいるのです。尊敬すべきご当主のジョンが、その状況を正確に言い当てました。空中楼閣、すべては幻想です! 話は以上です。どうかこれでご勘弁ねがえませんか?」
いっちゃんおんな「わたしは、たいして裕福ではありません。(親類の貧しい男は、そっと手をさすりながら、暖炉の火に目をやった。)裕福になりたいと、思ったこともありませんでしたから。でも、今のままで満足ですし、ほどほどの望みや願いもすべて、充分過ぎるくらいかなっています。城だって、豪華なものではありません。でも、とても居心地がよく、陽気で暖かくて、まさに、心休まる場所そのものです。
 長女は、クリスティアナにそっくりでしてね。ジョン・スパッターの長男と結婚しましたよ。わたしの家族とジョンの家族は、ほかのいろいろな面でも、強い絆で結ばれています。夜、みんなで集まると――しょっちゅう集まるんですよ――わたしとジョンとで、昔の思い出や、いつもふたりで持ち続けているひとつの思いについて語り合い、楽しくすごしています。
 城にいると、孤独がどんなものかなんて、まったくわかりません。子どもや孫が、いつも城の近くにいて、若々しく楽しげな声がしています。それを聞くと、こちらまで楽しくなりますよ! 最愛の、この上なく献身的な妻、クリスティアナは、いかなる時も誠実で愛情深く、わたしを支えて助け、励ましてくれます。クリスティアナこそ、かけがえのない、我が家の幸せです。クリスティアナがいて初めて、ほかのあらゆる喜びが生まれるのです。わたしの家族はみんな、音楽がとても好きで、クリスティアナは、わたしが少しつかれていたり、落ち込んでいたりするのを見ると、いつでも、そっとピアノの前にすわり、婚約して間もない頃聞かせてくれた静かな曲を、歌ってくれます。わたしはとてももろい人間で、ほかの人がその曲を歌っていると、とても聞いていられません。一度、劇場で、その曲が歌われました。わたしは、フランクぼうやと一緒に、その場にいました。フランクが、ふしぎそうに言いました。『ねえ、マイケルおじさん、ぼくの手に、あったかい涙がぽたぽた落ちてくるよ。だれか泣いているのかなあ?』ってね。
 わたしの城も、そして、城の中での実際の暮らしぶりも、今お話しした通りです。わたしは、フランクをよく城へ連れていきます。孫たちも、フランクのことが大好きで、一緒に遊んでいます。一年のこの時期――クリスマスや新年のことです――には、わたしは、城からめったに出ません。というのも、この季節には、どういうわけか、城にいようという気が起こるからです。城にいるべきだと戒められているように思うのです」

「それで、その城というのは……」話を聞いていた一族の中から、厳粛な優しい声がした。
「はい。わたしの城は……」親類の貧しい男は言った。首をふりながら、暖炉の火をずっと見ている。「空にあります。尊敬すべき一族の主ジョンが、場所を正確に示してくれます。城は空にあるのですよ! わたしの話は、これで終わりです。さあ、どなたか次の話をしてくださいますか?」


strawberry私は、それほど金持ちではありません。と手をこすり、火を見つめながらその貧しい縁者は言った。彼は続けた。私は、それを気にしたことはないですし、今のままでこと足りています。そのうえ、適度な欲求やもどかしさもあるのです。私の城は、豪華ではありませんがとても快適で、暖かく、陽気な雰囲気に包まれています。全く理想の家そのものです。
 私達の一番上の娘、彼女の母親にそっくりなのですが、ジョンスバターの一番上の息子と結婚しました。私達2つの家族は、特別な愛情の絆でしっかりと結ばれているのです。私達は、頻繁にがやがやと集まりますが、そんな夕べはとても楽しいのです。ジョンと私は、古い時代のことを語り合います。私達の間には、常に共通の話題がつきません。
私は、城の中で、寂しいと感じたことはありません。それは、私の子供や孫達が居てくれるおかげです。彼らの若い声は、とても明るい、おう、明るいなんて一言で言い表せないほど、私には、歓喜に満ちて伝わってきます。私の愛しく、もっとも献身的な妻は、絶えず信頼をよせ、常に愛に満ち、いつも頼りになり、支え慰めてくれます。我が家のお金には変えられない幸福です。彼女は、幸福があふれ出る泉なのです。私達は、音楽一家とも言えるでしょう。私が、疲れて憂鬱な顔をしているときはいつでも、クリスティアナが、やさしい様子でピアノを弾き、歌ってくれます。私達が婚約した当初、彼女が歌っていた時と同じように。私は本当に弱い人間ですから、人からとやかく言われるのは絶えられません。彼らは、一度、あの劇場で演奏したことがあります。私が、リトルフランクと一緒だったときでした。彼が不思議そうに言いました。「マイケルおじさん、暖かい涙が、僕の手におちたよ。」と。
このような私の城には、私の今までの人生の一部始終がつづられています。私は、よくリトルフランクを家に招きます。彼は、私の孫達からも歓迎されていて、よく一緒に遊びます。この時期、クリスマスと新年、私は、あまり外に出ません。季節の風物詩が、私を魅了し、この季節のありさまが諭してくれるのです、ここにいるのが良いと。
「そして、私の城は、」重々しくもやさしい声で、まわりに述べた。
「そう、私の城は、」と貧しい縁者は、手を振りかざし、いまだ火を見つめ、「宇宙です。ジョン、私達の尊敬する主人は、まさしく、と思っているでしょう。私の城は、宇宙なのです。これで、終わります。わかっていただけましたでしょうか。」
牛原 眞弓 わたしは(貧しい縁者は暖炉の火を見つめ、ゆっくりと両手をこすり合わせながら話を続けた)、それほど裕福ではありません。そうなりたいとはまるで思いませんでしたから。でも、十分なものを持っています。ほどほどの欲望を満たすこともできますし、なんの心配もありません。わたしの城は豪華絢爛というわけではありませんが、とても居心地がいいのです。温かくて陽気な雰囲気に満ちていて、「家庭」というものを絵に描いたようなところです。
 わたしたちの長女は、母親にとてもよく似ているのですが、ジョン・スパターの長男と結婚しました。ふたつの家族は、そのほかにも愛情という絆で親密に結ばれています。みんなで一緒に集まる夜は――それはしょっちゅうのことですが――ほんとうに楽しいですね。そんなとき、ジョンとわたしは昔話に花を咲かせたり、ふたりで常に目指している共通の目標について語り合ったりするのです。
 城の中では、孤独というものを全く感じることがありません。子どもたちや孫たちのだれかが、いつもあたりにいますから。自分の子孫たちの若い声というのは、なんとも嬉しいものですね――ああ、そんな声を耳にするのが、わたしにはどれほど嬉しいことか! そして最愛なるわが妻、この上なく献身的で、つねに忠実で愛情に満ち、いつもわたしを助け支えて慰めてくれる妻は、わが家にとってかけがいのない天からの恵みです。わが家に満ちるほかの恵みもすべて、この妻から泉のように湧き出てくるのです。わたしたちは結構、音楽好きな家族でしてね。クリスティアナは、わたしがすこし疲れていたり気落ちしたりしているのに気づくと、いつでもそっとピアノに近づいて、静かな旋律のアリアを歌ってくれるのです。この曲は、わたしたちが最初に婚約した頃、妻がよく歌っていたものです。わたしはとても涙もろい人間ですから、妻が歌ってくれるとき以外は、この曲を聞くのに耐えられないのですよ。一度、劇場でこの曲が演奏されたことがありました。そのときわたしはリトル・フランクと一緒にそこにいたのですが、この子が驚いて言いました。「マイケルおじさん、おじさんの涙なんだね、さっきからぼくの手の上に落ちてくる温かいものは!」
 さあ、どうでしょう、わたしの城はこんなふうなのです。そして、そのなかで守られて暮らしたわたしの本当の人生も、いま詳しくお話ししたとおりです。わたしはよく、リトル・フランクをわが家に招きます。彼が来ると孫たちが大喜びして、一緒に遊ぶのですよ。一年のこの時期には、つまりクリスマスと新年を迎える頃には、わたしはほとんど城から出ません。だって、お互いに親交を深めるべき時季ですから、家から離れるわけにはいかないでしょう。昔からの教訓でも、この時季は家にいたほうがいいと言いますしね。

「で、その城というのは――」周りで聞いている親族の中から、重々しく、しかし優しげな声がした。
「ええ、そうです。わたしの城は」と、貧しい縁者は暖炉の火を見つめたまま、首を横に振りながら言った。「空想の中ですよ。ご当主のジョンが、いま仄めかそうとなさったとおりです。わたしの城は空想の中なのです! さあ、わたしの話はこれで終わりです。みなさん、どうか聞き流してくださいませんか」
カピ 私はたいして裕福ではありません(暖炉を見つめ、手をゆっくりとすり合わせなが
ら貧しい縁者は言った)。お金持ちにになりたいと思ったことがないからです。でも
不自由はなく、不満や悩み事は少しもございません。お城は立派なものではありませ
んが、とてもくつろげる場所で、暖かで陽気な雰囲気に包まれています。まさに家庭
のあるべき姿そのものです。
 わが家の長女は母親そっくりなのですが、スパッター家の長男と結婚しました。他
にも良縁があり、両家は親密な絆で結ばれています。夕方にみんなが一堂に会する機
会が度々ありまして、それは楽しいひと時となります。ジョンと私は昔を語らい、二
人は今でもずっと同じ目標を抱いていると話しあいます。
 お城では私はまったく寂しい思いをしません。子や孫にはいつもお城で日がな一日
過ごす子がいて、子孫の若々しい声が聞こえてくると、私は嬉しくて、実に素晴らし
い気分になります。わが愛しの妻クリスティアナは常に家族のために誠心誠意つくし
てくれます。いつでもひたむきに、陰日向となり家族を支える姿は誠にありがたく、
わが家を幸福で満たしてくれます。うちはかなり音楽好きな一家で、私が少し疲れて
いたり落ち込んでいたりするのを見ると、クリスティアナはこっそりピアノに行っ
て、二人が初めて婚約したときによく歌った、おだやかな調べの曲を歌ってくれま
す。私はとても涙もろい人間なので、妻以外にこの曲が演奏されるのを聞くと、とて
も耐えられません。フランク君と劇場にいたときに一度、この曲が演奏されるのを聞
いたことがあります。甥っ子は不思議そうにこう言いました。「マイケルおじさん、
僕の手にかかる熱い涙は誰のものなの」
 以上がお城の姿であり、そこに私の本当の歴史がこのようにつぶさにおさめられて
いるのです。私はフランク君をよくわが家のお城へ連れていきます。フランク君は孫
たちに手厚く歓迎されて、一緒に遊びます。クリスマスから新年にかけてのこの時
期、私がお城を出ることはめったにありません。季節柄の楽しさや厳しさを思うと、
お城は離れがたく居心地の良い場所のように思えるのです。

「それでお城は――」列席者の中から、重々しく思いやりのある声があがった。
「そう、お城とは」貧しい縁者は暖炉に目をやったまま、頭を振りながら言った。
「私の空想です。まさに親愛なる当主のジョンが暗示したとおりです。お城は私の作
り事なのです。これで終わりです。みなさん、どうかこのお話はお忘れください」
キジトラ不遇な親戚は暖炉の火に目を向け、手をゆっくりこすりあわせながら話を続けた。財を成すことには無頓着ですので、とりたて裕福なわけではありませんが、不自由はなく、多少なりとも貧しさに悩まされるなどということはございません。私の城は豪華絢爛ではないものの、住み心地がたいそう良く、暖かな明るさに満ちております。まさに絵に描いたような家庭です。
 上の娘は、母親によく似た子ですが、ジョン・スパターの長男に嫁ぎました。それやこれやで両家の結びつきはゆるぎないものとなっております。皆が集う夜はまことに楽しいものです。そう、私たちはしばしば集まり、私とジョンは昔話に花を咲かせるのです。あのときから変わることなく、心はひとつのままであります。
 城におりますと、孤独とはなんぞやと言いたくなります。子やら孫やらがいつでも出入りしておりますし、自分の血をひく若い者たちが話す声を聞くのは、なんとまあ喜ばしいことでありましょうか! 最愛なる我が妻、献身的にて貞節、愛情深く甲斐甲斐しき、支え慰めをあたえてくれるクリスティアナは、我が家のかけがえのない宝であります。妻が産んでくれた子やその子どもたちも皆、家の宝なのです。我が家は音楽一家といえましょう。私が少し疲れて沈んでいるようなことでもありましたら、クリスティアナはそっとピアノに歩み寄り、婚約当初によく口ずさんでいたやさしい歌を歌ってくれるのです。私は弱い男で、この曲をほかで耳にすると、どうしようもない気持ちになってしまいます。あるときフランク坊やと劇場に行きましたら、この曲が流れたのです。坊やは不思議そうに言いました。「マイケルおじさん、誰のだろう、あったかい涙がぼくの手にかかったよ!」と。
 さて、これが私の城であり、そこにつまった私の本当の人生もろもろであります。しばしばフランク坊やを家につれてまいりますが、彼は孫たちに大歓迎され、遊び友達となっております。この季節、クリスマスと新年を迎える時分に城から出ることはほとんどありません。この時期にはさまざまな集いがあるので城から出られませんし、この季節の意義としても家にいるのがよいと思われるのです。
 
「して、その城というのは――」重みのあるやさしい声が、面々のうちから口を継いだ。

「ええ、私の城は――」不遇な親戚はかぶりを振ったが、その目はまだ暖炉の炎に注がれていた。「そう、空想です。我らの尊敬する御当主ジョンがお見越しのとおりであります。私の城は空想の世界です! さて、小話も終わりましたよ。いかがでしょう、こんなものでご勘弁いただけますかな?」
ねこのひげ 金もうけに執着しなかったので、大した財産はありません。(彼はそう言って、ゆっくり手をこすり合わせながら暖炉の火を見つめました。)しかし私にはこれで十分ですし、ささやかな願いや望みは全て叶えられました。私の城は豪邸ではありませんが、とても心地よく、暖かで楽しい雰囲気に満ちていて、正に絵に描いたような我が家なのです。
 長女は母親そっくりに成長し、ジョン・スパターの長男と結婚しました。2つの家族は愛情という絆でも固く結ばれているのです。夜になると家族の皆が一堂に会し、ジョンと私は昔の思い出や二人の目標について話すことがよくありますが、とても楽しいひとときです。
 私が暮らす城は、孤独とは無縁の世界です。子供や孫が常にそばに居り、彼らの若さにあふれた声が心地よく響きますー本当にその心地よいことと言ったら!最愛の妻はとても献身的で、いつも誠意と愛情をたたえ、私を助け、支え、癒してくれます。彼女は我が家にとってかけがえのない宝物であり、全ての幸せの源なのです。私達一家はとても音楽好きで、私が少しでも疲れていたり落ち込んだ様子を見せると、クリスティーナは静かにピアノの前へ座り、婚約当時のように優しい歌を唄ってくれます。私はとても弱い人間ですから、その歌を耳にすると涙があふれてしまうのです。かつてフランクと一緒に劇場に行った時にもその歌が流れ、フランクは不思議そうに、“マイケル、僕の手に熱い涙が落ちてくるよ。誰が泣いているの?”ときいてきたものでした。
 私の城、そしてそこに刻まれた私の人生は今お話しした通りです。私は時々フランクを我が家へ連れてきます。孫達は彼が来ると大喜びし、一緒に遊ぶのですよ。一年のこの時期、クリスマスから年の初めにかけて、私はめったに城から出ません。季節柄心に浮かぶことのせいで出不精になるのかもしれませんし、この季節に得た教訓から、そこに居るに越したことはないと悟ったからかもしれません。

 “そして城は―”一同から、落ち着いた穏やかな声があがった。
 “ええ、私の城は―”貧しい縁者は、暖炉の方に目をやったまま首を振って言った。“空中にあるのです。親愛なるご当主のジョンはお察しのことと思いますが。私の城は空にあるのです!話はこれでおしまいです。さあ、次の方に順番を回していただけますか?”