第24回 『北村京子のノンフィクション翻訳道場』の評価結果

出題日:2011/12/19  応募締切日:2012/01/16  講評・成績発表日:2012/01/30

出題テキストThey find that the rewards of learning English are as slight as its difficulties are great, and they warn their fellows to this effect. Nor does the oral sound of English allay the prejudice thus created. Soothing and dear and charming that sound is to English ears. But no nation can judge the sound of its own language. This can be judged only from without, only by ears to which it is unfamiliar. And alas, much as we like listening to French or Italian, for example, Italians and Frenchmen (if we insist on having their opinion) will confess that English has for them a rather harsh sound. Alto- gether, it seems to me unlikely that the world will let English supplant French for international purposes, and likely that French will be ousted only when the world shall have been so internationalised that the children of every land will have to learn, besides their own traditional language, some kind of horrible universal lingo begotten on Volapuk by a congress of the world's worst pedants.
総合評価 【第24回 課題解説】
■試訳■
そして悲しいかな、我らイギリス人はフランス語やイタリア語といった言葉の響きを好ましく思っているにもかかわらず、イタリア人やフランス人からは(こちらがあえて意見を求めたなら)、英語の音はどうも耳障りだと言われてしまうに違いない。つまるところわたしには、英語がフランス語に代わって国際的な言語として認められるようになるとは思えないし、フランス語が今の地位を追われるとすれば、それは世界の国際化が極端に進み、どの国の子どもたちも母国語のほかに、世界でも最もたちの悪い空論家たちが寄り集まり、あの人工言語ヴォラピュク語を踏襲して作り上げた、万国共通語なるおぞましいものを学ぶようになったときのことだろう。

And alas, much as we like listening to French or Italian, for example, Italians and Frenchmen (if we insist on having their opinion) will confess that English has for them a rather harsh sound. Altogether, it seems to me unlikely that the world will let English supplant French for international purposes, and likely that French will be ousted only when the world shall have been so internationalised that the children of every land will have to learn, besides their own traditional language, some kind of horrible universal lingo begotten on Volapuk by a congress of the world's worst pedants.


■解説■
★ And alas, much as we like listening to French or Italian, for example, Italians and Frenchmen (if we insist on having their opinion) will confess that English has for them a rather harsh sound.

* And alas
悲しみを表す「ああ」という言葉です。そのまま「ああ」とするのは日本語にはなじまないというか、不自然なので、「悲しいかな」などが適当でしょう。「悲しいけれども」「残念ながら」くらいだと、「alas」の大げさな印象が生かせません。

* much as we like listening to French or Italian, for example,
直訳「たとえば我々はフランス語やイタリア語を聞くのが好きだが」
「much as」は「~だけれども」です。「for example」はこの後の「イタリア人やフランス人」ではなく、文の前半にかかっています。「for example」は「たとえば」と単純に訳してもいいですし、「フランス語やイタリア語といった言語」のように、文中にニュアンスを入れ込んでしまってもいいでしょう。

* Italians and Frenchmen (if we insist on having their opinion) will confess that English has for them a rather harsh sound.
直訳「イタリア人やフランス人は(もし我々が彼らの意見をどうしても聞きたいと求めたなら)、英語は彼らにとってどうも耳障りな音を持っていると告白することだろう」
「if we insist on having their opinion」は補足的に入れられている部分ですし、あまり長いとうるさいので、短くスッキリとまとめたいところです。まず「もし」は省きましょう。「if」というのは、日本語においては省いても構わないことが非常に多い単語です。後半に「~なら」を使えば、それだけで「もし」のニュアンスを表せるからです。「彼らの」と「聞きたいと」も、なくとも意味が通じるので省きます。すると「我々が意見をどうしてもと求めたなら」程度に短くできます。

* confess
これはもちろん「告白する」という意味の単語ですね。訳も「告白する」としても間違いではないですが、わたしはそれではどうも生っぽすぎる気がしたので、「言われてしまう」という言葉を使いました。そのほか皆さんの訳には、「本音を言う」「洩らす」などがありました。

* rather
「rather」は「かなり」という意味にも、「少々」「どちらかというと」という意味にも使われますね。また、何かについて否定的な意見を言うときに、印象を和らげるために使われる単語でもあります。それを考えるとこの場合は、「どうも耳障りだ」のようなニュアンスがぴったりくるかなと思います。


★ Altogether, it seems to me unlikely that the world will let English supplant French for international purposes, and likely that French will be ousted only when the world shall have been so internationalised that the children of every land will have to learn, besides their own traditional language, some kind of horrible universal lingo begotten on Volapuk by a congress of the world's worst pedants.

* 直訳「つまるところ、わたしには、世界が国際的な場で使用する言語として、英語をフランス語に取って代わらせるようなことをさせるとは思えないし、またフランス語がその地位から落とされるとしたら、それは世界が非常に国際化され、すべての国の子どもたちが、自国の伝統的な言語の他に、世界最悪の衒学者たちが集まる会議においてヴォラピュク語を踏襲して作り出した、おぞましい世界共通語とやらを学ばなければならなくなったときのことだろう。」

* 非常に長い文ですが、できれば切らずに訳してみましょう。長い原文を切った方が確実にベターな訳文になるという場合はまた別ですが、原文のリズムやニュアンスを生かす意味でも、まずはできるだけ原文の区切りを尊重して訳すことをおすすめします。今回の場合も、切らない方が日本語としても読みやすい訳文が書けるかなと思います。

* Altogether
これまでいろいろと話してきたことの論点をまとめるための言葉です。「つまるところ」「要するに」「結局のところ」などがふさわしいでしょう。

* it seems to me unlikely that the world will let English supplant French for international purposes, and likely that...
「it seems to me unlikely that ~, and (it seems to me)likely that」という構造です。「わたしには(最初の)that以下のことはありそうには思えないし、そして(二つ目の)that以下のことはありそうに思える」という意味になります。

* French will be ousted only when the world shall have been so internationalised that the children of every land will have to learn, besides their own traditional language, some kind of horrible universal lingo begotten on Volapuk by a congress of the world's worst pedants.
ここは非常に長いですが、長いからこそ、まずは頭から訳します。最初に「フランス語が今の地位を追われるとしたら、」を持ってきます。そうすれば、その後に長々と続く部分が「フランス語が地位を追われる場合の説明」であることが明確になり、読み手は安心して先を読み進めることが出来ます。逆に「世界が非常に国際化され、子どもたちが~」から始めて、最後に「~のときこそ、フランス語がその地位を失うだろう。」とすると、何が言いたいのかが明確にわからないままに長い文を読まされて、読み手はイライラしてしまうわけです。

* the world shall have been so internationalised
原文は受身形ですが、日本語の場合は「世界が国際化され」とするよりは「世界の国際化が進み」とした方が自然でしょう。

* their own traditional language
素直に「自国の伝統的な言語」と訳してもいいですし、ここは単に「母国語」という言葉を使っても、必要十分なニュアンスは含まれていると思います。

* some kind of horrible universal lingo
「some kind of」は「~ある種の/~のようなもの」ですね。「lingo」は「奇怪で耳慣れない言語」という意味で、その言語を揶揄したニュアンスを含んでいます。ですからこの部分は、「世界共通語とやら」「世界共通語なるもの」のように訳すとしっくりきます。「horrible」は「わけのわからない」「怪しげな」「おぞましい」「ぞっとするような」などいろいろな訳が可能です。ただし「怖い」わけではないので、「恐ろしい」「おどろおどろしい」などとしてしまうと、ちょっとニュアンスが違ってきます。

* begotten on Volapuk
「ヴォラピュク語」は、1880年にドイツ人司祭が考案した「人工言語」です。一時は欧州でかなりの注目を集めたようですから、この文章が書かれた1919年頃の人たちには、おそらく常識として知られていたのでしょうね。現代人が読む場合、何の説明も入れないとわかりにくいですが、くわしい解説を文中に入れ込むともたもたしてしまうので、どうするか判断が難しいところです。この場合は文中では「ヴォラピュク語」あるいは「人工言語ヴォラピュク語」としておいて、注で解説を加えるのがベストかもしれません。「begotten on Volapuk」というのは、「まずVolapuk語という基礎(前例)があって、その上に(それを踏まえて)生み出された」ということですから、「(Volapuk語を)基礎として/踏襲して作られた」などと訳せばふさわしいかなと思います。

* by a congress of the world's worst pedants
直訳は「世界最悪の衒学者の会議で」です。「pedant」は、日本語にあまりぴったりくる訳語がありませんね。「衒学者」は一般の人になじみが薄く、一読して意味がわかりにくいので、避けた方が無難かと思います。わたしはかなり悩んだ末、「空論家」を使いました。「world's worst」はそのまま「世界最悪の」でも構いませんが、わたしはこの表現はなんだかぎこちないというか、こなれていない印象があるという気がしたので、「世界でも最もたちの悪い」としました。それから「congress」ですが、これはもちろん「会議」ですね。ただし、彼らが実際に会議を開くかどうかは重要ではないので、ここは「寄り集まって」「よってたかって」などと言い換えても構わないでしょう。

優秀者

氏名 訳文 得点 コメント
梅雨のソナタ そして悲しいことに、我々英国人は、たとえばフランス語やイタリア語に耳を傾けるのが好きだけれども、イタリア人やフランス人は(我々から意見を強く求められたら)、英語の響きはかなり耳障りに感じられると打ち明けることだろう。全体的に見て、英語がフランス語に代わる国際語として世界に認められることはなさそうであり、今後、世界があまりにも国際化されてしまい、あらゆる国の子どもたちが本来の母語のほかに、あの世界最悪の空論家たちの学会によってヴォラピュク語から誕生させられた、世界共通語などといういまいましいものの類を学ぶはめになった時にのみ、フランス語はその座を追われることになりそうだ。
読解:★★★★★★★★★★
表現:★★★★★★★★
こちらこそ、よろしくお願いします。「悲しいことに」は「悲しいかな」くらいにした方が、「alas」の大げさなニュアンスが生かせるでしょう。「耳を傾ける」はいい表現ですね。「打ち明ける」も悪くないと思います。「世界があまりにも国際化されてしまい」は日本語としてややぎこちないかな。「世界の国際化が極端に進み」などがベターでしょう。「so~that」だからといって、「あまりにも」のように訳す必要はありません。後半の文は、課題解説にも書きましたが、「French will be ousted」をもっと前に持ってきた方が意味を取りやすい文になるでしょう。
milka それに、悲しいかな、われわれ英国人がたとえばフランス語やイタリア語の響きが好きなのと同じように、イタリア人やフランス人は(意見を言うよう求められたなら)、自分たちには英語はいくぶん耳ざわりな響きがする、と認めるだろう。つまるところ、世の中の人々が英語をフランス語に代えて国際語としてしまうことは、起こりそうもないように私には思われるし、フランス語がその地位を取り上げられるのは、世界がすっかり国際化されて、どの国の子どもたちも伝統的な自国語のほかに、この世で最もひどい空論家たちが寄り集まって、ヴォラピュクに基づいてこしらえたある種の不愉快な世界共通語を習わなくてはならなくなったときだけであろう。
読解:★★★★★★★★★
表現:★★★★★★★★
かなり読みやすくまとまっています。「いくぶん耳ざわり」「すっかり国際化されて」などの表現はいいですね。欲を言うなら、もう少しスッキリとシェイプアップしたいところ。たとえば「自分たちには英語はいくぶん耳ざわりな響きがする、と認めるだろう」は、「英語にはいくぶん耳ざわりな響きがあると洩らすだろう」とも書けますし、また「世の中の人々が英語をフランス語に代えて国際語としてしまう」を、「英語がフランス語に代わって国際語として認められる」と書くことも出来ます。微妙な違いですが、細かく気をつけていくことで、全体的にかなりこなれた印象になるでしょう。「ヴォラピュク」は、これだけだと何のことだかまったくわからないので、せめて「ヴォラピュク語」としたいところ。英語の音が実際に耳ざわりだったのかどうかは、判断が付きにくいですよね。おそらく当時の欧州人同士でないと、共有できない感覚なのでしょう。
mitsuko そして、残念ながら、我々はたとえばフランス語やイタリア語を聞くことを好むけれど、イタリア人とフランス人は(彼らの意見を信じるならば)、英語はどちらかというと耳障りに聞こえると白状するだろう。つまり、英語がフランス語に代わって世界中で使われるような世の中になるとは思われないし、フランス語が使われなくなるとしたら、そのときは、世の中が完全に国際化されて、どこの国の子供も、自分の国の言葉の他に、世界の最悪なえせ学者の集まりによってボラピュク語でこしらえられた、国際語というおかしなものを学ばなければならなくなったときだけだと思われるのだ。
読解:★★★★★★★★★
表現:★★★★★★★★
「残念ながら」よりは「悲しいかな」などとした方が、「alas」の大げさな雰囲気を生かせます。「英語がフランス語に代わって世界中で使われるような世の中になるとは思われないし」はうまいですね。読みやすいです。「世界の最悪なえせ学者」は、ちょっとぎこちないかな。せめて「世界最悪の」あるいは「世界でも最悪な」としたいところ。細かい修正点はあるものの、全体的に流れよく、読みやすく書けています。後半の文を切らずに最後まで続けて訳したところ、そして「フランス語が使われなくなるとしたら」を文の前半に残して訳したところがお見事でした。「begotten on Volapuk」については課題解説をご覧ください。「ボラピュク語でこしらえた」はちょっとあやふやな印象ですが、間違いでもない感じですね。