入門翻訳勝ち抜き道場

ブログ:翻訳以前

~翻訳以前、本を知る楽しみ~

公開講座―プロになるぞ!! の藤岡啓介先生のいいぐせに「それは翻訳以前の問題だ」という言葉があります。
でも、その翻訳以前とは、いったいどういう状態なのか?
このブログは、お昼寝の先生の枕頭をおしゃべり雀がさえずりまわりああだこうだ
それは読書論でもあり、文章論、翻訳論でもあります

【この質問に答える】では、本文中に登場する短い英文の翻訳を受け付けております。お寄せいただいたなかから、
藤岡先生が選んだ優秀作を選出、誌面で発表します。選ばれた方には\500のアマゾンギフト券を進呈します。みなさま、是非、ご参加下さい!

桃山さんに、童話の話でも、とおねだりしたら、「桃太郎バンザイ」だってさ。
これだから世の中面白い。
だれもかれも、いいオハナシもってるんだな。

わたしのシェヘラザード

桃山まや

「あなたのお母様はよくおしゃべりなさる方じゃありませんか?」
ミッション系の学校へ通っている時に、担任だったシスターからこんなことを言われたことがあった。
「はい、どちらかと言えばおしゃべりな方かもしれません。でも、どうしてそうお思いになるんですか?」
わたしは唐突な質問と、彼女の眼力に少なからず驚いて、そうたずねた。
「あなたが無口だからです。無口なお嬢さんのお母様は、たいていおしゃべりだと決まっているんです」
シスターは図星でしょ、といわんばかりに黒縁めがねの奥で目を細めた。

わたしの娘がどちらかというと無口な方だという事実を踏まえれば、シスターの言った言葉が必ずしも正しいとは言えないけれど、わたしの母は確かにおしゃべりな人である。それにコロコロとよく笑う。

子供の頃、弁護士になりたいと思っていたくらいで、あなたのお母様は小さい頃から理路整然とものを言う子でね、とむかしむかし、母の叔母からそんな話を聞かされたことがあった。

母にはおしゃべりの才能のほかにもうひとつ、今でこそその能力を発揮する機会がなくなってしまったけれど、物語を作る才能がある。

なにしろ小学校に上がるまで、わたしと妹のベッドタイム・ストーリーは、母が作ったお話と決まっていたのだから。

物語といっても、文字にしてあるわけではなく、ほとんどが即興で、成り行き任せのようなところがあったけれど、千夜一夜物語のシェヘラザードのように、注文の多い二人の小さな暴君たちの傍らで、母は毎夜奇想天外なお話を聞かせてくれた。

いくらせがんでも、同じお話を聞くことができないのが難点といえば難点だったが、それでも一つだけ例外的に、繰り返しきくことができたお話がある。

継母に無理難題を言いつけられて旅に出た女の子が、絶体絶命のピンチになると「桃太郎バンザイ」という呪文を三回となえて窮地を逃れるという物語だ。

一番のお気に入りだったはずなのに、今ではその筋さえはっきりと思いだすことができない。せめてあのお話だけでも文字にしておいてもらえばよかった、とこの年になって後悔している。



きっと、だれにもこうした、とっておきの「オハナシ」があるんだろうな。編集さん、子供のときに父の話した、母の話したオハナシを書いてもらおうよ。みんな、あるよね。そりやぁ、ぼくだって人の子、父親も母親もいてくれて、父親がある時期、寝しなにオハナシをしてくれたさ。いつもの、同じコワイハナシで、姉と二人、その「場」に来るとかならず泣いていた、父は歌舞伎と浪花節、落語の世代だった。「桃太郎バンザイ」はなかったな。まやさんのお母さんは洋風で、凛々と、勇気のある人なんだろうな。
 次回はだれが引き継ぐのかな。ぼくはディケンズの書いた『マグビー乗換駅』を用意しよう。素晴らしいイラストをみつけて、得意になって、いまさかんに「バンザイ」やってるんだ。(ケイスケ)

熟年は素晴らしい、いたずらに年を重ねてはいけない

「翻訳以前」で出題した課題に、多くの方々から応募がありました。みなさま、ご協力どうもありがとうございました。優秀作を2点選びました。さあ、どんな訳が一番に選ばれたでしょうか。また、他にはどんな訳が?藤岡先生の解説は?講評と応募作を一挙公開。この短い文から多くのことが読み取れます。そして次の課題は?お楽しみ下さい。


Keren Smedleyと著書

「洋書の森」で見つけた新刊書にあった宣伝文をみて、これはWEB サイトにふさわしい「課題」になるな、と思って出題(7月27日号、「翻訳以前」)。案の定、山ほどの「解答訳」が到着。編集の濱口さんがここらで打ち切るから、先生、しっかり選んでくださいよ、いい加減な調子で選ぶと、みなさん錚々たる才媛、怖いな、先生も私もこの世界でやっていけないから。

そうです、無責任な匿名子が跋扈するWEBサイト調から脱して、大真面目に取り組みます。

課題は、
Age is just a number. It’s totally irrelevant unless, of course, you happen to be a bottle of wine.
です。

Joan Collins
Joan Collins
in November 2007
at age 74

大女優Joan Collinsの言葉です。ジョーンさん、加齢にめげず、いやめげるどころかますます美しく輝いている現代女性の代表で、彼女の「名言」は多くの読者を捉え、Keren Smedley の“WHO'S THAT WOMAN IN THE MIRROR?”を含めて多くの著書で引用されているようです。

さて、藤岡さん、これまでもやってきた翻訳法に、近頃「文節区切り対訳法」という名称を与えて得意になっているのですが、今回も、それを援用してみます。

  • Age is just a number. ――年齢はたんに数字にすぎない。 → 年齢なんて問題じゃない、ただの数字だ、問題なのは……
  • It’s totally irrelevant ――それはまったく不適切である(関連がない、関係がない、意味がない)
  • unless, of course, ――もちろん……でないかぎり
  • you happen to be a bottle of wine.――あなたが、ワイン1瓶であろうとしているなら

さて、これをどうのようにつなげるか? 1.3.4.2.でしょうね。並べてみます。

――年齢なんて問題じゃない、ただの数字だ、もちろん、あなたが、ワイン1瓶であろうとしているのでないかぎり、それはまったく不適切である(関連がない、関係がない、意味がない)

これでは意味が分かったようで分からない。最後の2.でパーレンで囲んだ語句までも連れてきたのは、文意を正しく読み取るためですが(述部をこのように何通りか考えておくことも大切です)、これでも、文意がうまく掴めません。否定辞が2語あるので、いっそのこと肯定文に書き換えてはどうでしょう。

――年齢はただの数字である、もちろん、あなたが、もしもワイン1瓶であろうとしているのであるなら、それは意味がある。

――年だからといって諦めてはいけない、ワインだって熟成するんだ、年を重ねることに意味があるように生きようではないか。

a bottle of wineは、age, agingと連想して、女性としてのあなたが、「寝かすに足るワイン → 熟成するに相応しい」、と発想します。

ジョーンさんは、年齢を重ねるごとにますますすばらしい輝きを発するよう、女性に励ましの言葉を与えているのでしょう。

藤岡さんの解釈、牽強付会(けんきょうふかい)かも。なにしろ、ディケンズを現代人に読んでもらおうとageingをものともしないで頑張っているんだから(ここでageingは単な枯らし)。

さて、あまたの課題応募訳から次の2作を優秀作に選びました。

ハンドルネーム:いぬだいすき
回答:あなたがビンテージワインでもない限り、歳なんてものは、意味のないただの数字にしか過ぎないのよ。

ハンドルネーム:珈
回答:年齢なんてただの数字。もう全然意味ないわ。そりゃあ、あなたが偶然にもビンテージワインなんだっていうなら話は別だけど。

もう1作と応募作を熟読したのですが、「熟成ワイン」と「熟女」とが結びついていない。(これって、藤岡さん、週刊誌の読みすぎじゃないかしら)

みゅうの母さんの「年なんてただの数字よ。意味なんかこれっぽっちもないわ。もちろん、あなたがボトル入りのワインじゃなければの話だけれど」が肉薄しているんだけど、「熟成」が伝わらない。ヨシノスケさんが言葉の世界が違うようだと悩んでいましたが、その通り、日頃の調練だな。

“Practically Speaking A Dictionary of Quotations on Engineering, technology and Architecture”(selected and arranged by Carl C Gaither and Alma E Cavazos-Gaither, IOP Publishing Ltd, 1999)

がありますよ。同じ著者夫妻で、他に4冊も。引用されている文章はすべてが含蓄のある言葉。翻訳は至難かな。(丸善日本橋本店の最後の数年、まだ洋書の棚に良書がたっぷり見られたころの話)

「いぬだいすき」さんと「珈」さんの翻訳、いかがでしたか?「熟成」と「熟女」。「熟」がポイントでした。さて、他にはどんな翻訳が集まったでしょうか。以下、到着順で掲載します。

ハンドルネーム:みかんみかん
回答:年齢なんてただの数字よ。意味なんてないわ。だって、人間はワインじゃないんだもの。

ハンドルネーム:Juliet
回答:年齢は単なる数字にすぎない。まったく見当違いもいいとこだ。もちろん、君がワインだったら話は別だが。

ハンドルネーム:いぬだいすき
回答:あなたがビンテージワインでもない限り、歳なんてものは、意味のないただの数字にしか過ぎないのよ。

ハンドルネーム:オードリー
回答:年齢なんて、ただの数字です。ボトルに詰められたワインならともかく、まったく気にすることはありません。

ハンドルネーム:mogu
回答:年齢なんて数字だけのことよ。だから今何歳かなんてまったくどうでもいいことなの。もっともワインにでもなったなら話は別だけど。

ハンドルネーム:tomaminka
回答:年齢なんて、単なる数値でしょ。ちっとも重要じゃないわよ。もっとも、あなたが、ボトル入りワインになっちゃったのなら別だけれど。

ハンドルネーム:昭和枯れすすき
回答:「年齢なんて、ただの数字よ。そんなものに拘る必要はさらさらないわ。あなたがワインなら別だけど」

ハンドルネーム:ポーシャ
回答:年なんてただの数字。いくつだって構いません。そりゃ、自分がワインだったらって考えたら、たいへんなことですけど。

ハンドルネーム:yuzurin
回答:年齢なんて単なる数字じゃない。全くどうでもいいことよ。当然、ワインなら話は別だけど。

ハンドルネーム:momo
回答:年齢なんてただの数にすぎないし、まったく意味がありません。もちろん、あなたが実はワインボトルだというなら話は別ですけど。

ハンドルネーム:nobody
回答:年齢なんてただの数字。全く無意味よ、ワインじゃあるまいし。

ハンドルネーム:riverside
回答:齢などというものは、ただの数字ですよ。まったく意味などありません。あなたが万が一にも、一瓶のワインだというのなら、無論、話は別ですけどね。

ハンドルネーム:Nao
回答:年齢は数字にすぎません。まったく無意味です。もちろん、ひょっとしてあなたがワインなら話は別ですが。

ハンドルネーム:みゅうの母
回答:「年なんてただの数字よ。意味なんかこれっぽっちもないわ。もちろん、あなたがボトル入りのワインじゃなければの話だけれど」
なんて、どうでしょうか。
それなりの年齢になれば、色っぽさは自然と出てくるものだとか、人間丸くなっていくものだとか、疑うことなく過ごしてきたけれど、現実は厳しかった。熟成したワインの深みは、時間だけでは生まれてこないものなのですね。

ハンドルネーム:Tanako
回答:年齢なんてただの数字よ。全然関係ないわ。もし貴女がボトル入りのワインなら、もちろん話は別だけどね。

ハンドルネーム:なぼ太郎
回答:年齢なんてただの数字にすぎない。もちろん、たまたまワインだったというのであれば、まったく別だけれど。

ハンドルネーム:tomoki y.
回答:生まれ年なんて、ただの数字ね。まったく無意味。といっても、あなたがワインのボトルなら、もちろん話は別だけど。

ハンドルネーム:SeaOtter
回答:年齢なんてただの数字。何年経とうが全く関係ないわ。もちろん、もし貴女がワインなんかでなければネ。

ハンドルネーム:tant
回答:年齢なんて、ただの数字にすぎないわ。ワインなら年齢が大切だけどね。

ハンドルネーム:かこちゃん
回答:年齢なんてものは只の数字。ワインのボトルでもあるまいし、私たちには全然関係ないことだわね。

ハンドルネーム:のん
回答:年というのは、ただの数字であって、重要ではない。もちろん、ワインに関しては別だが。

ハンドルネーム:airship
回答:年齢なんてただの数字よ。そんなもの全然関係ないわ、ワインじゃあるまいし。

ハンドルネーム:miona
回答: 年齢なんてただの数字。もちろんボトルワインにでもなるっていうなら話は別だけど、でなきゃ何の意味もないわ。

ハンドルネーム:Lucyrose
回答:年なんてただの数字。全然こだわることではないわ。年にこだわっていいのはワインだけ。

ハンドルネーム:真希
回答:年ってただの数字。全く不適当なものよ。もちろん、あなたが不運にも一本のボトルワインなら話は別だけど。

ハンドルネーム:JUANITA
回答:年齢はただの数字。全くの無意味だわ、もちろん、あなたがワインボトルであるのなら話は別だけれど。

ハンドルネーム:milka
回答:年齢は、単なる数字にすぎません。まったく役に立たないものです。もちろん、あなたがひょっとしてワインのボトルであるのなら、話は別ですが???。

ハンドルネーム:felsbrunnen
回答:年齢なんてただの数字にすぎません。そしてその数字は、何の意味もないのです。あなたがワインじゃないかぎり。

ハンドルネーム:珈
回答:年齢なんてただの数字。もう全然意味ないわ。そりゃあ、あなたが偶然にもビンテージワインなんだっていうなら話は別だけど。

ハンドルネーム:chai
回答:年齢はただの数字。ワインでもない限り、まったく意味のないものよ。

ハンドルネーム:legalaleienuk
回答:年齢とはただの番号に過ぎない。
当然ながら、あなたがたまさかワインの
ボトルでない限り、何の意味も持ちは
しないのだ。

ハンドルネーム:ヨシノスケ
回答:年齢なんてただの数字にすぎないわ。そんなことは本当にどうでもいいこと。もちろん、ワインだったら話はべつよ。
(ジョーン・コリンズ、実は今回初めて知りました。こういう自分とはまったく違う種類の人の言葉を訳す時は特に、どういう口調にすればいいのか、難しいです。やはり、本をたくさん読んで、色々な口調や言葉遣いなんかを蓄積しておかなくては、と思いました)

ハンドルネーム:wezzy.i.naoki
回答:年齢はただの数字に過ぎない。そう、ワインにでもならない限り、年齢は全く無意味なものなのだ。

ハンドルネーム:Taiyo
回答:年齢なんて単なる数字だ。まったく何の関係もない。もちろん、ワインのボトルでなければ。

以上、34名の応募がありました。みなさま、どうもありがとうございました!
そして、次回の課題は…

課題応募作の選定では、原著者と同年輩の伊豆野良江さんの判断も求めましたが、vintage の理解で一致しました。さてと、今度はディケンズの出題しよう。テーマはknowledgeだ。難しいや、だれに相談しようかな。

ディケンズに挑戦!!

ディケンズは全集で34巻、他にも収録されていない短編やら講演、雑信、書簡があるので、実際に鵞ペンで書いたのは(他人に読んでもらうために書いたのは)、ゆうに50巻を越えるでしょう。その中から「名句」を一つ。

But wot’s that, you’re a-doin’of ? Pursuit of knowledge under difficulties, Sammy?

どう訳しますか? 【この質問に答える】

出典はThe Pickwick Papers, Chapter 33です。


[藤岡啓介記]
2009年10月5日号