サン・フレア アカデミー
特別講座:出版翻訳「藤岡ゼミ」第5期開講!
毎年3月に開講する特別講座:出版翻訳「藤岡ゼミ」、2010年は第5期を迎えます。
詳細については、こちら。
テキストはチャールズ・ディケンズのスリラー小説“The Signal-Man(信号手)”。
『クリスマス・キャロル』など一連のクリスマスものに含まれます。
トンネルの信号手が、幻覚、幻聴を覚え、事故を予感して怯えている。そして、ある日、彼は轢死体になって発見されるのですが、現代でいう“Supernatural & Weird Fiction(超自然・怪奇小説)”のジャンルの傑作です。
「今さらディケンズ?!」という疑問に応えます。
2012年には生誕200年を迎えるディケンズですが、怪奇物といっても読者に迎合する安手の小説ではなく、鉄道がもたらす文明と、個々の人間の精神生活の破たんを提示した近代文学の傑作といえる『信号手』です。ディケンズの時代規範を理解し評価し翻訳することは、わたしたちの生活規範をきずくことにもなります。
「こともあろうにディケンズ!」
そうです、ディケンズの文章は型破りです。筆名BOZの本人もいうように「真似ようのない無双のボズ」で、後輩のトロロープが「ディケンズの文章を手本としてはいけない、真似するならサッカレーだ」といったほど。
でも、不思議とディケンズ気分は日本語に似合います。構文、単語、あらゆる点からみて難解ですが、それを解明する方法は、翻訳がもつすべての問題を解決します。
もう若いとはいえない歳になってから、新たに「翻訳屋」の看板を軒先にブラ下げようと思い立った僕の場合、何かしら「翻訳講座」を受講しようと決意するまでにも、紆余曲折がありました。まず、今さら英語力や日本語力を短期間で飛躍的に向上させようという野心がない。そんなこと、一朝一夕にできないことはよくわかっているから。また、学校嫌いの自分が、寒々しい蛍光灯の並ぶ教室で、どなたかの講義に耳を傾けている姿も想像できない。
そんな折、妙な(?)講座の告知が。小人数で鎌倉の先生のご自宅にお邪魔して、こともあろうにディケンズをテキストに、翻訳の勉強をするとのこと。「翻訳で生計=実務翻訳」という現実が重くのしかかっていただけに、かえって僕はその誘惑に抗えませんでした。
結果は大正解。文芸翻訳が翻訳の王道であるとしたら、それは文芸翻訳に「正解」がないから。受講生たちがみんなそれぞれの翻訳をしてくる。それを見較べるだけでもとても勉強になるのですが、この「正解がない中で正解を追い求める」という文芸翻訳、ひいては翻訳一般の逆説を、藤岡先生がその博識と、壁を埋めつくした蔵書の数々を駆使して、懇々と説いて下さる。出版業界の内幕から、古書・稀書の類に属する参考文献にいたるまで、「正解」のない世界だからこそ助けとなる手引きを、ふんだんに織り交ぜながら。
そして、江ノ電と、稲村ヶ崎のきらめく波と、空を舞うトンビと、先生の奥様の出して下さるコーヒーとが、蛍光灯に取って代わるのです。